突然、視界が真っ暗になった。
さっきまでブラッディーメアリーを煽っていたはずの私は、次の記憶では干からびた七面鳥の骨が床に落ちているのを、突っ伏して見つめていた。
飲みすぎたのだろうか。いや、記憶が確かならば、まだ2杯目のはず。一杯、盛られたのだということを理解したのは、眩む視界が次々と移り変わり、恐れていたあの聴診器が目に入ったからだ。
間違えようのない、ステンレスブルー色した聴診器。かつての夫に私がプレゼントしたものだった。
他人には順風満帆にみえたかもしれない私たちの結婚生活は、愛とはほど遠いものだった。彼は私を道具のひとつとしてしか考えておらず、だが異常なまでのツールコレクターである彼は、私を自分の布で好きな時間に好きなように磨き上げ、鑑賞したがった。
私はモノじゃないわ。ある日ついに私は爆発した。彼は私を嘲笑い、言い捨てた。「お前は人間だが、私の所有物だ」
以来彼は執拗に私を監視して尋常ならざる束縛をはじめた。ついには手足を縛られて、糞尿もその場でさせられるようになった。
反抗していた私も、徐々に絶望を受け入れるようになった。彼の経営する医院は私を重病患者として隔離することは日常茶飯事だったのだ。
だがある日、看護士の隙をつき脱出することができた。だが監視という安定から逃走という不安定に変わり、私の神経は衰弱する一方だった。名もない酒場で私は酒に逃げる毎日。そんな矢先だったのだ。
アルコールではない酩酊に不規則な鼓動が私を襲う。筋弛緩剤特有のだるさは目をあけることすらも奪う。私はただ、ひんやりとした聴診器の感触と虫酸が走る夫の嘲笑を感じ続けるほか、なかった。
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