ふぅ、と重いため息とともにマンションの扉を開けた。
一週間の長期出張は、私の全身を乳酸だらけにし、雑然とした部屋の片付けもうっちゃり、そのままベッドへ倒れこむ。
少しだけ。
そう決めて目を閉じたはずが、みるみるうちに体は鉛となり、再起動を鈍らせる。
あー。ダメダメ――。まずはお風呂のお湯ためて、その間にコンビニ弁当を温める。ほらそこまでいけば洗面台まですぐよ。化粧を落とさないと、ただでさえ最近後輩に陰口叩かれてるのに、ね。
こうして10分は自己弁護をつづけてみるが、もちろんお風呂もレンジも無言のままだった。ついついよいしょとかけ声をつけつつも起き上がり、のろのろと洗面所に這ってゆく。オイルクレンジングを泡立て、疲労が激しい目元まわりからマッサージがてら化粧を落とした。案外知られてないけど、私の仕事では目力が重要だ。ファンデーションなどは所詮アイラインを引き立てるための下地作りに過ぎない。それでも近頃は外回りが増えてきて、紫外線対策も馬鹿にできなくなった。この仕事、なんだかんだいっても外見が重要だったりするわけで。
疲れがたまると独り言も増える。いい加減、独り暮らしも飽きてきたし、どこかに転がりこもうかとも思う。
だいたい、念入りな化粧を落とさないと人間らしい気持ちに戻れないこの仕事に疲れ気味になっていた。私の素顔を誰一人知らない。結婚し、愛する夫に素顔を捧げるのも悪くないのかもしれないなと、いつになく弱気なのは、満月の夜だからだろうか。
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