義人さん、私たち、これからどうすれば――。
早智子は墓前で心の中で問うてみたが、彼は何も返事をしてくれなかった。
聡美は、早智子の心中を知ってか知らずかいつもより殊更明るく振る舞っているようにみえた。早智子は心に余裕がなく、生返事をしながら墓石に手を合わせていた。いつしか、赤の他人のために、またも苦しまなければならない理不尽な運命を呪い、ため息という呪文となってかわった。
さすがに聡美ははっと口をつぐみ、そしてみるみるうちに不機嫌な殻を作り始めた。早智子は、それをみてさらに内心毒づいた。「子供はいいわ…そうやって態度に出せるから」
自分こそがその原因なのだということすら気づく余裕を持てないまま、時は過ぎてゆく。ここを離れるのが怖い。そう思いながらも、居続けることも限界だった。
早智子は、聡美を流し目で促し、帰る支度をし始めた。赤の他人の墓石を赤の他人が2人通り抜け、霊園の入り口へと向かった。
霊園前にあるバス停で、休日ダイヤのバスをじりじりと待つ間、2人の会話はなかった。逃げ水を追うかのようにアスファルトを見つめていると、つとはす向かい先にある緑の植え込みから白地のスカーフがのぞいているのをみつけた。
美沙に違いないと確信した瞬間、スカーフを巻いた美沙が聡美と自分に向かって歩いてくるのがみえた。
早智子は慌てて美沙のいる側に駆け出した。
「約束が違います」
先日会った時からすっかり憔悴したようにみえる美沙は、早智子をみずに答えた。
「あなたにはわからないわ。お腹を痛めて産んだ我が子とやっと会えた気持ちなんて」
「それはあなたの我が儘じゃないんですか。聡美ちゃんの気持ち、考えてあげてください」
「あなたに言われる筋合いはないわ」
その通りだと思った。だが、私は何かに突き動かされている。それは一体何だろうか。
答えのないまま、額から大粒の汗がいくつか流れ落ちた。
「おばさん、何やってるの」振り向くと聡美が向かってきていた。ダメ、と言おうとした瞬間、一台の2トントラックが突然の聡美の登場に慌ててブレーキを踏んでいた。
「危ない!」
早智子は止まりきれないトラックの悲鳴を遠くで聞いていた。