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「なぜそんな話を私に?」
「あなたは少なくとも、日本は法治国家であり、民主主義の国家であることに誇りを持っていると感じているからです」
「そう言われるあなたは、私に法を犯してでも、【ステルス】の解毒剤を手に入れろとおっしゃるのは、矛盾ですな」
「矛盾は正義で理論化すれば良い。いかにも民主主義からかけ離れた考えですが、僕は純粋な日本人ではないから」
「いや、今あなたは日本の行く末を憂慮されたからこそ、私に託されたのではないのですか?」
「…私はただ、佐知子さんが望んだであろうことを託しただけです」
「奥村さん。あなたはどうされるのですか」
「…さあ。僕は国に帰るかな。だって、大沢の鼻を明かすためには、台湾を独立させるしかないでしょう。僕が人柱になって、台湾を守らなければ」
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永沢は、奥村との会談を終えたあとも暫く、革張りの応接セットから腰を浮かすことができずにいた。
永沢には、彼が奥村隆史の顔で話していながら、自分には最後まで蒋永春にしか見えなかった。
奥村は、自分に奥村隆史を託していったのだ。そして彼は、蒋永春として何を覚悟しているのだろうか。
連日の寝不足で働かなくなった脳では、真実を導き出すことはできそうになかった。
永沢の思いはいつしか大沢に対する憎悪へと移っていった。
巨大財閥を擁する大沢は、グループ企業に解毒剤の製造まで指示して私腹を肥やす青写真を描いているに違いなかった。
この国に新たな黒歴史を刻ませてはならない。決して。
永沢は強い決意で踵を床に叩きつけると、部下に指示を出し始めたのだった。
(つづく)
この小説はフィクションであり、作品に登場する団体や個人は実在しません。