「痛ってぇなこの野郎!」
きらびやかな街六本木において静謐なオアシス、毛利庭園に似つかわしくない怒号が夜のしじまをうち破る。
マナブはぶつかってきた相手を見てしまったと思ったがもう遅い。明らかに筋者のパンチパーマ男と殴り合いをはじめなければならなかった。
やらなきゃやられる。20年生きてなお曲げることのないマナブの信念だ。先手必勝のチョーパンで、パンチパーマ男を何とかのした。
すると植え込みの陰から小太りの若者が頭を出した。「あ、ありがとうございます!」
「はぁ?」
「ボク、その男に狙われてたんです。あなたのお陰で助かりました」
「(たまたまだけど、ふっかけてみるか)んじゃ、お礼になんかくれや」
「…うーん、今手持ちはありませんが、ボクのいきつけのキャバクラならツケきくんで、接待できますが」
「ふん、まぁいいだろう。だけどしょっぱい店だったら承知しねーかんな」
「大丈夫っす。この界隈ナンバーワンだし、勿論VIPルームですから」
小太りの話は正しかった。確かに名の通った店だったし、だだっ広いVIPルームで美女が何人もマナブを囲んだ。
一晩いたらウン十万の金がかかるだろうが、支配人と小太りの会話から、マナブはちゃんと招待されているのが分かり、安心した。
帰りには小太りの母親であり店の経営者だという女性がマナブを見送った。なんとあの女性実業家、野田美佳だった。野田は飲みすぎで頭痛がするマナブのために部屋まで貸してくれ、頭痛薬と水も用意してくれていた。
マナブは深く考えることなく好意に甘えたが、後に、最初からすべて野田親子の仕掛けた罠だと知るのは、マナブが「頭痛薬」でキメるのが癖になり、野田の上得意となってからのことだった。