エヌ氏は鼻で笑った。今さら不幸の手紙とは。アメブロのメッセージ機能で回ってきたとはいえ、その中身は昔から変わらないものにみえた。
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このメッセージをあなたの友人、知人5人に転送しなければ、あなたのまわりで不幸が起こります。
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エヌ氏は折しも人生に絶望しており、自分などどうなっても構わないと思っていたから、むしろ不幸は歓迎すべきことだった。自分など消えてしまえばいい。とはいえエヌ氏は分別ある大人。そもそもチェーンメールなどに効果があると思っていなかったから、当然無視したのだった。
ところが、手紙のことなど忘れたころ、エヌ氏の人生は急変した。竹藪から一億円を拾って一躍時の人となり、インタビューを受けた縁で恋人もできた。つぶれかけていた自営店舗も、竹藪特需がきっかけですっかり息を吹き返した。
まさに人生絶頂期。だがその勢いは収まる気配のない一方で、周りで立て続けにおぞましい出来事が起こった。登山サークルの友達たちが登山で行方不明の末、無言の帰宅となってしまった。恋人が暴行に巻き込まれ、自殺した。さらに父親が母親と無理心中しようとし、植物状態に。
エヌ氏は手紙を思い出し、慌てて知人に送ることにした。
だが、慌ててしまったのが原因となり、エヌ氏は通り魔によって惨殺されることとなる。
人一倍責任感の強いエヌ氏は、本人は妬まれるほどの成功を手に入れる一方で、友人たち「周り」に不幸が起こるのに耐えられなかったのだ。
つまり不幸の手紙の本質は、他人の不幸に耐えられないかどうかなのである。
不幸にもその本質を「手紙」に見抜かれたエヌ氏は手紙の連鎖を断ち切れず、死亡してしまった友人にも送ったことで、その不幸が自分に却ってきたのだった。
ここで賢明な読者諸君にお尋ねする。
もしも、この手紙がまさに「不幸の手紙」だとしたら――
あなたは人を殺めることができるだろうか。
ただ、あなたが友人に送ったとしても、友人が連鎖を断ち切ったならば、あなたはその生涯を苦しみながら閉ざされることになるだろう。
今のあなたにとってはあと、5人。
だが連鎖が完全に絶たれない以上、近い将来、あなたの知らないところで、あなたへの死刑執行がなされるのは間違いないのだ――。