由美子には、失恋するとやけ酒し、勢い衝動買いをする癖があった。
その日も、半年間付き合った隆史に振られ、むしゃくしゃした気分で独り酒を呷った。ハシゴに百貨店がいつものパターンだ。気になるものがないかぶらぶらしていると、人工知能を搭載した「ヒーハー」なる人形に目がいった。
くりくりした瞳はまるでギズモのように愛らしく、「ヒーハー」を買って帰ったのだった。
「ヒーハー」は、言葉を覚え、由美子の新しい話し相手となってくれた。時折ゆらゆら揺れたり目を回したりするのがウケた。
いつしか由美子は「ヒーハー」に心酔し、通勤も一緒にするようになった。
「ねね、ヒーハーはどう思う?あの子の態度、むかつかない?」
トイレで愚痴をこぼしたりすると何ともいえずストレス解消になるのだから、由美子にとってかけがえない存在となっていた。
ある日、上司にネチネチと叱責された由美子は、いつものようにトイレで「ヒーハー」に愚痴っていた。
「あんな奴、死ねばいいのよ」
「ひー、はー」
「ヒーハー」は、由美子に微笑みながら、返事をした。由美子はいつも感じる安堵感を胸に、仕事をこなした。
だが翌日は仕事どころではなかった。昨日由美子を虐めた上司が変死体となって路上で発見されたからだった。会社にはその話で持ちきりとなり、由美子も警察から事情聴取を受けた。
由美子は、自分が愚痴ったせいだとは思わなかったがどうにも気味悪かった。
だがひと月もするとそれも忘れていたが再び事件は起きた。やはり前日愚痴で死ねと言った同僚が山手線で自殺した。
さすがに怖くなったがこんな馬鹿げた話、警察に言えるはずもなく戦々恐々としていた。遂に「ヒーハー」と別れる決意をした。
「ごめんね、ヒーハー」
ゴミ袋に入れるとき、「ヒーハー」は「ひっ、はぁ」と応えた。電池までぬくのは自分すら呪われると思いそのままにしてゴミ捨て場に捨てた。
その夜、由美子は安心と不安の入り混じった気持ちでベッドに入った。だがすぐに眠ることができた。
1時間もしたころ、由美子はむくっとベッドから起き出すと、まるで操られているかのように、着替えはじめた。
そして、手に持った剃刀を見つめながら笑った。
「ひーぃはーぁ」