荷物のことなど、日々に忙殺されていた。義人の私物を日本大使館が送ってくれたのだった。
早智子も聡美も緊張を隠せない。早智子が開封することにした。中には、出発時に抱えていった旅行鞄が入っていた。成田に送り出した日のことが鮮明に思い出された。あの時の私は、確かに彼を愛していた。今はどうなのだろう――。考えないようにしてきたのに、あの日の情景が浮かぶと制御がきかなくなった。
そんな気持ちを整理したところで、どうなるわけでもないのに――。
鞄には、義人のパスポートや財布などが入っていた。使用済みのYシャツをみた瞬間、まだ彼が生きているような錯覚に陥った。聡美も同じ思いに浸っているように思えた。
目じりを押さえながら、鞄の中身をひとつずつ確かめていった。モバイルパソコンケースの中に、宿泊先ホテルの便箋に書かれた、早智子と聡美それぞれに向けられた手紙が挟まれていた。
義人は、携帯メールを嫌ったが今時珍しい筆まめで、交際当初からよく、渡航先からのエアーメールを送ってくれた。
少し前までは日常だった事実に懐かしんでいる自分に嫌悪していることに自分でも気づかないまま、自分宛ての手紙を開封して読んだ。
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早智子
今、2日目の上海だ。初日に現地ベンダーとの接待を終え、夜に余裕ができたので筆をとりました。
正直、挙式前に海外出張させる会社を恨んでいるけど、その分休みはしっかりもらってるから仕方ない。すまない。言い訳にしかならないな。
でも新婚旅行先のニュージーランドは任せてくれ。きっと最高の思い出になるよ。聡美を連れていかないことに君は反対してくれたが、3人が家族になる前に僕も君との新婚気分を味わいたいし、何より君に対する感謝の気持ちをまずは旅行で示したいんだ。
もちろん、聡美にはフォローしなければ…ここだけの話、聡美はうさぎグッズに目がない。君さえよければ、うさぎをペットで飼ってあげたいんだがどうだろう。きっとご機嫌になるはずだ。――
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早智子は読みすすめるうち、涙をこらえることができなくなっていた。鼻をすすって先を進めようとしたその時、聡美が目を拭いながら自分の部屋に走った。
扉の強すぎる音が、早智子の耳に叩きつけられたのだった。