「い、命がけですか?」
思わずたじろいだエヌ氏に、彼は今日の晩ご飯の話をするかのようにいった。「とはいっても行動自体は大したことではない。ただこのサイコロを振るだけじゃ」
「サイコロをふればどうなるのですか」
「2から6までの数字が出ればdead、それ以外だとaliveじゃ」
エヌ氏は目の前にある賽を見つめた。2つのサイコロを振るということは、12分の5の確率で死ぬのだ。
エヌ氏は考えた。サイコロを振らなければ死なずにすむが、仕事も辞めて今の生活に浸りきっている中、
神に見放されるのは万死に値すると恐怖にうち震えた。
自分で投資を続ける才覚などないことをエヌ氏は熟知していた。だからこそ、神に出会うまでの40年間、平凡な人生だったのだから。
生存の可能性のほうが高いのは分かっているが、それでも振るのは怖い。背中に冷や汗が滝のように流れる一方、口の中は緊張でカラカラだった。
考えに考えた末、サイコロを振ることにした。握った瞬間、四角が汗水に浸された。
心臓が爆ぜそうなほど激しく膨張している。考えてみるに、もしも死の目が出たら…どのような形で死んでしまうのか?
「それは教えられん。だが、気がつくより前に死んでいるだろうて、ほっほ」
胃がせり上がってくるほどの恐怖がエヌ氏を襲う。手のひらにある2つの賽が燃えいるように熱い。投げ出してしまいたい衝動に駆られた。目がかすむ。だが、投げないわけにはいかない。今もつ全ての資産を全力で守るため、投げなければ。
ついにエヌ氏はえいと賽を投げた。
4。
刹那、エヌ氏の心臓は爆ぜ体は崩れ落ちた。どさりと音がした。
彼はびっくりした様子でエヌ氏の死を確かめ、思わずつぶやいた。「まさかほんまに死ぬとはの…くわばらくわばら」
「わしのカンなんてたまたまのたまたま。あやつ、恐怖でショック死しおったわい。まさか、賽の目(dice)の単数形は死(die)という洒落が現実になるとはの。
ま、あやつの残した財産でわしもいよいよ億万長者じゃよ」
彼は、エヌ氏として第2の人生を歩むことを以前から決めていたのだった。
彼は、ずだ袋にしまっていた文庫本を取り出し、拝んだ。「あんたのおかげじゃ」
その本の表紙にはこう書かれていた。
「あなたも神様になれる!カリスマ宗教指導者への道」