第1話はこちらから>>
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大久保には曇り空がよく似合った。
佐知子にとって大久保は、滅多にくることはないが、印象の強く残っている街だった。
最後に訪れたのは春山整形外科病院に入院した友人を見舞った時だった。屋外にいながら換気されていないような、鬱陶しい熱気がまとわりつくのを今も感じる。
佐知子は大二郎とともに、干からびたネオンをくぐり抜け、奥村の遺体が安置されているはずの場所へ向かっていた。
小滝橋通りを中野方面に向かって歩くと大久保通りにぶつかり、目当てのホテル海南が姿をあらわす。
奥村が勤務先に選んだのも大久保なら、もの言わぬ体となってもなお大久保にいる。アジアの坩堝に身を置くのは運命なのかもしれないと、ぼんやりと考えていると、大二郎に話しかけられた。
「ここから先は、俺がいこう」
「今さら引き返せないわ」
「間違いなく厳重な警備が敷かれているはずだ。我々は成田とばかり思い込んでいたくらいだからな…」
「だったらなおのことよ」
佐知子は涼しい表情で頷いた。言い知れない不安と恐怖が佐知子を無口にさせ、大二郎にも感染した。
ずぶの素人が、SPに立ち向かうなど、例え大二郎が武術に心得があってもどだい無理な話だった。
可能性があるとすれば正面突破より、油断させたうえでの先手必勝しかなかった。
事前に練った具体的戦術は自衛隊のレンジャー部隊に属しているというメンバーに任せた。
スゥィートルームのある最上階にはルームキーがないと上がれなかったが、一つ下の部屋を抑えることができた。
敵がワンフロアしか借り切っていないあたり、つけいる隙はあると考えたのだった。
佐知子と大二郎は、階下から作戦本部と連携し、情報提供しながら奥村を確保することが役割だった。
(つづく)
この小説はフィクションであり、作品に登場する団体や個人は実在しません。