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さしあたって、奥村は目の前にいる男からしか情報を得る術はないことを悟った。
明言していないが、蒋永春として確保されているのは明らかで、問題は、誰に、何の目的で捕らわれているかだった。
奥村は「スピード」が発見されて以来、ウイルス解明にしか頭がなかったが、一方で、「スピード」を解明した暁には、政治利用しようと考えていたことも事実であった。
そう考えると、細菌兵器としての可能性を見いだした輩がいてもおかしくはない。自分を研究者兼サンプルとして確保したのかもしれない。
中国本土側が革命家としての蒋永春を確保したとも考えられるが、「スピード」発生のタイミングとあまりに近いのが不自然な気がする。
さらにもうひとつの可能性も考えてみたが、それは有り得ないと決めつけた。「あの情報」だけは、漏洩は断じてあってはならないのだ。
奥村は深呼吸すると、改めて、男と対峙する覚悟をきめた。
「あなたは、なぜ私をこの場所に連れてきたのですか?」
「私は小間使いですので、何も申し上げる立場にありません。しかし、個人的には、あなたは当事者でもあり、巻き込まれた第三者でもあるような気がします」
男が本当に小間使いであるなら、かなり勇気ある発言だといえた。奥村は、男の発言によって、何故拘束されているのかは何となく分かったのだった。
当事者というのは、「スピード」感染者としてか、或いは蒋永春としてかのいずれかだが、巻き込まれたというニュアンスも含めるのであれば、その両方だと考えられた。
いずれにせよ気になっているのは、何故奥村は「スピード」の危機から脱出できたのかという点だった。
もし「スピード」には解毒剤があり、奥村の感染も予定されていたなら、話に辻褄が合うのだった。
(つづく)
この小説はフィクションであり、作品に登場する団体や個人は実在しません。