出迎えてくれた女性に予約していた旨を伝えた。
マーロウ様ですね、ありがとうございますという返事とともに、
丁寧かつ簡潔にエスコートを受けた。
ランチは、美肌鍋というものを頼んだ。
飲み放題というのは日本独特のサービスだし、頼んでみることにした。
しかしながら、レノックスと違い、ぼくは酒には関心がない。
今夜の目的を忘れてはならなかったが、まずはビールに限る。
冷えたグラスを空にすると、少し気持ちが軽くなったような気がする。所詮はこんな男なのだ。
メインディッシュが目の前に運ばれる。
鍋にはカットされたレモンが入っており、食通ではない僕も軽い衝撃を受けた。
日本人のママの味はこういうものなのかと納得していると、
彼女は外国人であるぼくに気さくに語りかけてきた。
たわいのない話ばかりだったが、実に心地よい。六本木にはオアシスがあることをぼくは知った。
あきらめて、ぼくは彼女に頼んだ。「ギムレットを」
運ばれてきたギムレットは、ぼくの予想通り、辛口だった。
ローズ社のフレッシュライムジュースじゃない限り、あの甘味は出ないのだ。
彼女のパーソナリティはとても穏やかだが、彼女のつくる作品はそのギャップを感じさせるように仕上げている。
強くなければ生きていけない。優しくなければ生きる資格はない。
そういうことだ。
レノックス。彼女の作ったギムレットを飲むといい。
彼女と実際に出会って、またいつか、六本木に来る日まで、ギムレットを飲まないと決めたにも関わらず、ぼくはさよならをいったんだ。
ぼくの知っていたエルモアは、もうぼくの心にはいない。
強さと優しさの同居する、エルモアと向き合うために。
「探偵バー」とかかれた看板を見ることができるのは、いつになるのだろう。
ぼくは、長いお別れを告げた。
了
※本小説は、筆者が実際に行ったエルモアさんの店の感想をチャンドラー風に仕立てたものです。実際はギムレットは飲んでません(笑)
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