◆4月17日午後11時00分◆
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新宿という街は、夜のとばりがおりることはない。
ネオンがひしめく街中にある新宿区救命センターも例外ではなく、
夜特有の静寂のなかに怒号と喧騒が飛び交っている。
佐知子は未だ、スピード対策本部が撤去された後も、ここ救命センターに居残っていた。
奥村の生い立ちを知る佐知子は、居場所の糸口をつかまずに、立ち去ることなどできなかった。
奥村は、自分の過去を話してくれるタイプではなかったが、
かつて一度だけ、孤児であることについて佐知子に語ったことがあった。
ただ、自分の地位を確保するために、必死に努力したわけではなく、
好きなことに熱中していたら、大学院まで行けた(もちろん奨学金制度を利用したらしいが)とこともなげに語った。
奥村に親族がいないのであれば、
何かあった時の連絡は救命センターに入るはずだった。
「スピード」の進行速度からいえば、奥村は既に死亡している。
身よりのない奥村に自分ができることは、
心こめて来世に送り出すことだと、佐知子は考えていた。
涙も悲しみも訪れないことを佐知子は知っていた。
昨年、自分の母親を亡くした時、それらが降りかかってきたのは葬儀を終えた後だったのだ。
佐知子の悲壮な覚悟によっても、0時を過ぎようとしたその時に入った、奥村死亡の連絡は、
打ち消すことも衝撃をやわらげることもできなかった。
(つづく)
この小説はフィクションであり、作品に登場する団体や個人は実在しません。