パニック小説【感染者-Season2-】第3話 | 相武万太郎オフィシャルブログ「六転び七転び八転びROCK。」(音楽、小説、酒)

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ベッキーがテレビに出てるとチャンネルを変えてしまう男が、好きな音楽や小説を語ったり書いたりらじばんだりしています。音楽は洋楽ロックメインだったが最近はハロプロ大好きです。特にANGERME。

◆4月16日午後2時45分◆







新宿区救命センターに到着した佐知子は、

奥村の変わり果てた姿に言葉を失った。





点滴につながれ、ベッドに臥してはいるが、

サイドテーブルにはペンとルーズリーフを置いている。





吐血した血液がシーツに点在し、看護士が拭いた努力がそれらをピンク色にみせている。





奥村の眼窩は大きくくぼんだようにみえるが、命の輝きは失われていなかった。





奥村は、佐知子の動揺を受けとりたくないのか、

ことさら気丈に振る舞った。





しかし気管支が癌細胞に圧迫され、変声しており、

話すほうも聞くほうも難儀した。





会話がつらくなった奥村は、ルーズリーフを手にとり筆談に切り替えた。





佐知子は、これが奥村の声を聞く最期になるかもしれないと思った。





奥村は唾をのみこむのもつらそうにしており、

佐知子は思わず彼の背中をさすり、水を与えた。







奥村はルーズリーフに必死に記していた。





佐知子はなぜか書き終えるまで覗いてはいけない気がして、ただ背中をなでていた。





奥村のペンがとまったようなので、佐知子はルーズリーフに目をやった。







「ありがとう」







奥村は少年のような表情をみせた。





佐知子は溢れそうになる涙をこらえ、話しかけた。





「何いってるの。今さら…仕事なんだし」





奥村は、言葉と裏腹な佐知子の気持ちを悟り、ゆっくりと頷いた。





殺人ウィルスによって死の淵に立たされた不幸のなかで、

2人の間にしばしの幸福が満ちあふれた。





道ならぬ愛の結末にしては、残酷ではないかと佐知子は思っていたその時、

三崎大二郎が入室してきた。





「お取り込み中申し訳ないがね、患者をモニターせねばならんので隔離させてもらうよ」





冷たく言い放った夫の口元は、醜く歪んでいることを佐知子は見て取った。







(なんて悪魔なの)







大二郎にとっての至福は、奥村の最期を佐知子が看取れず、

深い悲しみに突き落とすことにあった。





大二郎は、自らの手で奥村を乱暴にストレッチャーに移し終えると、

にやにやしながら奥村の部屋を出ていった。





佐知子は、薄暗い廊下で独り、人目はばからず泣き崩れた。