◆4月15日午後1時00分◆
奥村は急ごしらえの会議室に集まったメンバーを見渡した。
拡大被害を防ぐための防護服に身を包んでいても、
奴らの濁った目はよくみえると、
奥村はかつての同僚を密かに評した。
国立感染症研究センターの人間に、厚生省の感染症対策室メンバー。
感染症研究に日夜没頭する研究者と、
政治的駆け引きに長けたお役人が一同に会していた。
奥村もかつては医師でありながら、
研究の道に邁進していた一人だった。
しかし今は、新宿区救命センター所長の後ろに控える、ただの医師に過ぎない。
訳あって研究センターを辞めたが、こんな形で再開するとは夢にも思っていなかった奥村は、
辞めた原因となった、三崎佐知子をまぶしい思いで見つめ直した。
佐知子は、まだ30代にしかみえない容姿だが、
美貌と知性を兼ね備えた、国立感染症研究センターの若きエースだ。
奥村は、10才以上年の違う佐知子と道ならぬ恋に落ち、
研究センターの所長を務める彼女の夫の逆鱗に触れ、
職場を去ることになった。
あの頃味わった、甘酸っぱさと苦味を反芻しながらも、
会議の主役となってしまった自分を奮い立たせて、
厚生省のお役人がなした冒頭挨拶を引き継いだ。
「死亡した3人はいずれも急激な癌に冒されていました。
おぞましいスピードで進行していきました。
これを感染症と考えたのは、死亡した者が全員、
歌舞伎町の風俗店「elevenーeleven」の従業員だからです」
「放射能汚染は考えられないのかね」
「進行が速すぎます」
「ウイルスの特定はできたのか」
できたら会議をここでしていないと思いながらも、
辛抱強く答えた。「いいえ」
「ならば、感染症と決めつけるのは時期尚早ではないかね」
「ですから皆さんにお越しいただいたんです」
佐知子が奥村と厚生省感染症対策室長の間に割って入った。「時間がないので、特定に全力を挙げましょう」
佐知子の声に過敏に反応してしまう自分を呪いながらも、
奥村は救われた思いでプロジェクターのスイッチをONにした。
奥村自身も、感染した可能性があり、自らの死と対峙しながら、
このパズルを解かなければならなかった