緊迫感を持つ | くにゆきのブログ

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今、自分が感動したこと、また知っていただきたいことを、主に記していこうと思います。

     (『人間革命』第10巻より編集)

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         〈険路〉 39 完

 

 そうして、投票日の七月八日が来た。

 

 山本伸一は、寝苦しい夜をおくり、未明に目が覚めてしまった。廊下に出て、一階の洗面所に、ひっそりと下りた。

 

 すると、この時、玄関の方に人の気配がした。見るともなく見ると、龍岡巌が、玄関のドアを、そっと開けて、今、外に出ようとしている。

 

 声をかけようとしたが、差し控えた。はやる心の龍岡が、拠点へと急いでいることが、よくわかった。

 

 この時、伸一は、”これでよし、勝てる!”と思った。

 

 各拠点の責任ある幹部が、最後の最後の瞬間まで、緊迫感を持続していることを、龍岡の姿に見て取ったのである。

 

 伸一が部屋に戻ると、電話のベルが鳴っていた。

 

 受話器を取り上げると、東京からである。伸一は、端座して身を正した。受話器の向こうに、懐かしい戸田の声が響いた。

 

 「伸ちゃん、ご苦労。関西はどうだい?」

 

 「こちらは勝ちます!」

 

 「そうか。・・・東京は負け戦になりそうだ。私が東京に戻るのが三日遅かった」

 

 伸一は、戸田の言葉に、なんと言うべきか、窮して黙ってしまった。

 

 戸田城聖は、全国各地からの情勢報告を集めて、情勢分析をしていたが、彼の顔は次第に曇って、冴えなかった

 

 どの報告も楽観的であったが、彼の心のひだに感じるものは、数字的な報告とは反対なものであった。

 

 ・・・。

 

 九日の正午ごろに大勢は判明するだろうが、・・・。

 

 広宣流布も、いよいよ険しい道にさしかかったのだと、ひしひしと、彼は身にこたえた。

 

 哀感に沈んだのでも、まして絶望に襲われたのでもない。険しい山の絶壁が、彼の眼前にそびえ立っているのを直視したのである。

 

 彼は、一首の和歌に、わが心を託し、愛すべき全会員の一人ひとりに呼びかけた。

 

 いやまして  険しき山に かかりけり 広布の旅に

 

 心してゆけ