(『人間革命』第10巻より編集)
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〈険路〉 33
この時、岡田一哲の腹は決まった。
教学部員候補の講義にも、欠かさず大阪に通い、講師の山本伸一を知る。時には、家族が案ずるほどの熱心さであった。
地区部長となるまで、彼は、戸田の忠告を忠実に守ったのである。
選挙については、全く無関心の前半生を送った一哲が、このたび、戸田城聖と参議院議員選挙の候補者である十条俊三を迎えて、
鳥城公園で行われる大集会に、先頭となって奮い立ったのも、信心のゆえであった。
何千という会員が、鳥城公園に向かうのを目にした岡山市民は、何があるのかといぶかった。
岡山の幹部たちは、市民にも呼びかけた。傍観の多数の見物人を巻き込んで、いつか城址は約一万人で埋まった。
岡山をはじめとする中国地方の会員は、初めて戸田城聖に接する人が大部分であった。
この夜、岡山に一泊した戸田は、宿舎に岡田一哲を呼んだ。
戸田は、さまざまな報告を聞き、また、さまざまな指導と激励をしたあと、ゴロリと横になった。
そして突然、岡田一哲に尋ねた。
「仕事の方は大丈夫か?」
「はい、大丈夫です。私がいなくても、みんな、よくやってくれますから、すべて任せてあります」
岡田は、何げなく反射的に答えたものの、実のところ経営は赤字であった。
それを知る由もない戸田であったが、岡田の言葉に、安易さと不安を感じた。
瞬間、横になっていた体をがバッと起こすと、厳しい表情になった。