(『人間革命』第10巻より編集)
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〈険路〉 7
戸田の話は、なおも続いた。それは、関西の同志が初めて目にする厳しい法難の意義を、納得のいくように説明したかったからである。
「日蓮大聖人は、頸の座(くびのざ:日蓮大聖人が斬首の刑に処せられようとした竜の口の法難のこと)にあっても、
師子王のごとく毅然として、一歩も退くことなく戦われました。私たちは、師子王の子であります。
大聖人様のおほめにあずかる行動を、確信をもって続けることこそ、今の私たちの信条でなければなりません。
留置された同志たちも、それを願っているにちがいありません」
戸田は、一瞬、逮捕者の身の上を案ずるかのように口をつぐんだ。それからしばらくして、温かな眼差しを、場内の人びとに注ぎながら言った。
「とにもかくにも、私は、この通り元気です。あなた方も、元気ですね。今夜の御書に照らして申すならば、このたびの事件は、関西勝利の瑞相だと、私は確信するものであります」
戸田城聖は、公会堂から関西本部に戻ると、逮捕された六人の会員に関する、その後の情報を伸一から聞いた。
「伸ちゃん、ご苦労だが、みんなが釈放されるまで、大阪にいてくれないか」
「そのつもりでおります。幾日かかろうと、関西を離れるわけにはまいりません。東京のことは、よろしくお願いいたします」
伸一の言葉に、戸田は大きく頷いた。そして、安心したように、十三年前の彼が逮捕された時のことなどを、笑いながら話しだした。
・・・。
この時、既に一人釈放の報告が入ったいた。
「あと五人か・・・」
かっての偉大なる体験者は、差し入れのことなどを、こまごまと指示し、場合によっては、大阪府警当局を告発することまで、話し合うのだった。