(『人間革命』第8巻より編集)
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〈学徒〉 13
(つづき)
力強い希望が、ふつふつと湧いて来たんです。
私は、びっくりしましたよ。
そして、その不思議な力が、どうして起きたのか知りたくて、この仏法というものを勉強し始めたんです。
すると、今まで自分の知らない分野における因果関係が、ちゃんとあることに気づいた。
仏法には文証、理証ときちっと、そろっているんです。あなたも、ともかく勇気をもって、実践してみることをお勧めしますね」
藤原は、この東大の先輩の話には嘘のないことはわかったが、心の底での反発は、どうしようもなかった。
「その利益のあるということは、今の科学で説明がつくんですか」
「それは難しい。今の科学というものは、生命に対する考察を全く欠いていますからね。説明はつきません。
この意味からすると、真の仏法というものは、生命の科学といってもいいと考えますが・・・」
藤原は、この先輩の話を聞いて、ことによると、そうかもしれぬとも、ふと思い始めた。
そこへ神田丈治が帰ってきた。彼は、藤原とその友人をひと目見るなり、笑いながら言った。
「君たちには、ちょっと難しいだろうね」
これを聞いて、藤原は、むっとした。
彼は、そのまま席を立ち、友を促して家を出た。
彼には、この夜のことが頭に残って離れなかった。煩悶のうちに数日が過ぎた。
そして、三月二十二日午後の法華経研究会に出席してみると、S助教授の講義が、どうも現実離れしていて、一つも頭に入らなくなってしまった。
藤原は、やるせない思いで、帰途、渡吾郎を誘って家に帰った。