(『人間革命』第7巻より編集)
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〈匆匆の間〉 5
(つづき)
今、私には、どうしようもないが、ここで約束してほしいことは、生涯にわたって、絶対に退転しないということです。
決して、御本尊を疑わないことだ。その覚悟があれば、あとは必ず妙法の力によって、なんらかの実証が厳として出てくるだろう」
「はい、わかりました。ありがとうございます」
母親は立って、深々と頭を下げた。そして、何度も礼を繰り返して去っていった。
母親は、それから数日後に、報告に訪れた。
ー 指導を受けて、決意をして題目をあげ始めたところ、子どもの出血は完全に止まったというのである。
「今では、血の気を失っていた子どもの頬に、薄っすらと赤みもさしています」
母親は、感涙を浮かべて語るのであった。
次に、戸田の前に座ったのは、四十過ぎの男性であった。
語るところによると、彼は、自動車部品の工場主で、製造販売を業としているのだが、赤字経営がひどくなり、給料も払うことができなくなった。
従業員は次々と退職し、経営は全く困難となり、金策もままならない。
精根尽き果てて、工場、敷地を三百万円で売却して逃げ出そうという絶望状態の時に、知人の勧めで入会した。
新しい希望をもって、今日まで信心に励んできたものの、窮状は、ますます悪化するばかりだった。
そして、戸田の指導を仰ぎに来たのである。
「入会してからは、朝夕の勤行はきちんとやっております。折伏もできないながらもやりました。
しかし、資金調達もできず、苦境は極点に達し、今、絶体絶命なんです・・・」
入会したら、なお悪化したとも聞こえる口ぶりであった。
戸田は、その男の業種について詳しく問いただしてから、極めて平静に言うのであった。