(『人間革命』第7巻より編集)
97
〈水滸の誓〉 15
(つづき)
小説を読むということは、書かれた事件なり人生を、読者が経験することだといってよい。
だから、さまざまな小説から、実にさまざまな経験をすることができるわけだ。
青年のうちに、古今東西の名作を読むということは、古今東西の得がたい経験を積むことと同じです。
思索しながら、心して読まなければ、名作小説の価値はわかりません」
読書法についての、戸田の含蓄のある指導であった。
もし、この読書法を忠実に実行するならば、青年たちは、若くして、ありとあらゆる経験をすることも可能なはずである。
その経験の累積によって、自然に周囲の人物も正当に鑑別することもできよう。
これが、将の将たる者の第一の資格であろう。
自分の人生を見つめる眼を開かなくては、生涯の大事が成就するはずがない。
人が一生の間に体験することは、まことに限られたものである。
だが、読書によって、他人の経験を自分の経験として体験することは、人生の深さと、世間の広さを、まざまざと知ることだといってよい。
戸田が、青年たちに、思索と読書を強要するまでに求めたのは、彼独特の読書経験に確信をもっていたからである。
「作者の言わんとする思想を、よく見極め、登場人物を自分の身近なものとして、よく思索することが、小説を読むということだ。
それと同時に、作品の時代背景というものを、決して忘れてはならない。どんな人間も、時代の動きから免れることはできない。
時代の外には行けないものだ。
(つづく)