(『人間革命』第7巻より編集)
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〈水滸の誓〉 4
「君は、酒のつくり方を聞きに、ここに来ているのか。この会合を、いったい、なんだと思っているのだ!
私は不愉快だ。君は出ていきなさい!」
怒りは激烈を極めていた。戸田は、幾たびも大学生に退去を命じた。
大学生は、自分の非を悟るでもなく、呆然として立っている。それがさらに、戸田の怒りを激発させたのである。
それでも、戸田の怒りは収まらなかった。
「誰が、水滸会をこんなにしてしまったのだ。君たち自身ではないか。その青年だけの責任ではないはずだ。
一人だけ出ていく。かわいそうに・・・ 。
君たちは、同志愛まで裏切ってしまったのか。これでは情けない。私は帰る!」
彼は、部屋を出ようとした。慌てたのは、関久男をはじめとする首脳部である。彼らは、戸田の前に進み出て、膝をついて謝った。
「申し訳ありません。本当に申し訳ありません」
もはや、彼らの謝罪を聞くような戸田ではなかった。彼は、そのまま、すっと部屋を出て行ってしまった。
この思いがけない激変に、青年たちは狼狽し、心は乱れたまま、じっと座っていた。
関は、深い苦悩の色を浮かべて、一同に向かって、彼自身の反省を述べるとともに、水滸会全員の責任を糾明した。
すべては後の祭りであった。
沈痛な空気は、刻々と深くなるばかりである。
この時、山本伸一が立った。
彼は鋭い眼差しで一同を見ながら言った。
「水滸会は、このままでは、これで終わりになるだろう。先生は、二度と再び、お許しにならないに、ちがいありません。
しかし、先生のお怒りは、私たちに対する慈愛の鞭であるはずです。
弟子の立場からするならば、どんなに苦労しても、変毒為薬しなければいけないし、できないことは絶対にないと思う。
今、それを考えているところです」