(『人間革命』第3巻より編集)
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〈結実〉 3
戸田は立ち上がった。帰りの時間が切迫している。
再会を約し、彼は、山平を促して、また雨のなかに出ていった。
翌日、山平忠平は、早速、山本伸一を訪ねた。
そして、今度は、履歴書を書くようにとの戸田の意向を、忠実に伝えたのである。
法華経講義が行われた夜、その終了直後、山平は山本の側に行って、「履歴書、履歴書」と急き立てた。
二人が戸田の机の前に座った時、既に個人的な指導を求めている人が、三、四人いた。
山本伸一は、履歴書を手にし、”先生も、なかなか大変だな”と思いながら、話の終わるのを待っていた。
戸田は、諄々と指導した後、力強い声で言った。
「男らしい信心に立ちなさい。そして、力ある人生を生ききることだ。あなたの想像を絶した、実に見事な解決が必ずできる。
それには、題目をあげきることです。どんなことでも、変毒為薬できないわけがない」
それから戸田は、山本と山平の二人に顔を向けた。
「おう・・・ 」
「先生、山本伸一君です」
「わかっている」
山本伸一は、黙って履歴書を出した。やや長いまつげが影を落とし、まだ少年らしい面影を残している。
戸田は、丁寧に履歴書を広げ、子細に、じっと目を注いでいた。やや長い沈黙が流れていく。
戸田は、履歴書の記載事項については、何一つ尋ねなかった。やがて顔を上げると、微笑みながら、山本を見つめ、一言、こう言っただけである。