「最悪・・・」
どしゃぶりだった。
どおりで朝から髪がうねったりはねたりしてたんだ。
何故かこういうときに限って置き傘もいつもカバンに入れてあるはずの折り畳み傘もない。
「島原?」
風邪覚悟で帰ろうと思っていたら後ろから声をかけられる。
振り向くと土方くんが黒い傘片手に立っていた。
飾り気のない無地の黒い傘。
土方くんに合いすぎてて思わずドキドキした。
「お前、傘ねぇのか?」
「うん・・・置き傘もこの前使っちゃったし折り畳み傘もないし・・・」
「入ってくか?一緒に。」
「えっ!?」
土方くんは黒い傘を見せながら無表情で言った。
「いっいいよっ!大丈夫!うん!」
「風邪引くぜ。明日小テストあるだろ。」
「あ・・・うん・・・」
土方くんと相合傘。
彼の密かなファンに睨まれること間違いなしだ。
この際そのことは考えないことにしよう。
「えっと・・・じゃあお言葉に甘えて・・・」
「おう。」
私は遠慮がちに例の黒い傘に入る。
入ってみると予想以上に大きかった。
「大きいね、傘。」
「そうか?」
「うん。」
そう言って私たちは歩き出した。
何もしゃべらない。
私は意外にもこの沈黙が心地よかった。
無意識のうちに手が髪に触れる。
うねりとはねが嫌というほどわかって思わずうなった。
「・・・どうしたんだ?」
「いや・・・髪がうねったりはねたり・・・やだなぁって・・・」
「そうか?そうは見えねぇけど・・・」
「そうだよ!もうこことか触るとすごくわかるの・・・」
そう言って私はえり足の部分を触ってため息をついた。
するとふいに手が伸びてきて私の髪に触れる。
「!?」
「あー・・・確かにちょっとうねってるかもな。はねてるところもあるし。」
固まってる私の髪を土方くんは遠慮がちに触っている。
そしてはねてるところを優しく撫でた。
「あ、わりぃ・・・いやだったか?」
「だ、大丈夫・・・ッ」
ふいに手を離した土方くんは少し赤くなって再び前を向いた。
再び沈黙が訪れる。
熱い。土方くんに触られたところがとてつもなく熱い。
何も話さないまま歩いていると見慣れた風景が目の前にあることに気づく。
私のいつもの登校ルートだ。
「土方くん、家こっちだっけ?」
「いや、逆。」
「え!そうなの!?じゃあここでいいよ!」
慌てて出ようとするとぐいっと手を掴まれる。
「いいよ。送ってく。」
「あ・・・ありがとう・・・」
「あぁ。」
真っ赤になって言うと土方くんは手を繋いだまま再び歩き出した。
ちらっと横を見ると土方くんはまっすぐ前を向いていた。
耳が少し赤い。
それを見てさらに顔が熱くなった。
止まれ。止まれ。
時間も私の早すぎる鼓動も。
「ここだろ?」
「え?」
気がつくと見慣れた私の家の前だった。
「違ったか?」
「ううん!ここだよ。ありがとう。」
「おう。」
屋根の下まで行くと土方くんは私の髪をくしゃくしゃと撫でた。
「あんま髪のこと気にすんなよ。じゃあな。」
そう言って土方くんはきびすを返して再び雨の中へ戻っていった。
少し彼の背中を眺めてからドアを開ける。
家の中に入ってドアを閉めるとき、もう一度外を見るとまだ土方くんは家の前に立っていた。
小さく手を振ると土方くんは軽く手を上げた。
ドアを閉めてから私は急いで2階の自室へ向かう。
カバンをベッドに放り投げて窓の外を見た。
やっぱり飾り気のない大きな傘がだんだん小さくなっていくのを
私は飽きもせずずっと眺めていた。
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*作者の一言*
この土方くん、亜姫ちゃんと一緒に相合傘したくて偶然装って声かけたとしたら
かなり萌える。激しく萌える。
あと女の子が家の中に入るまで家の前で見守ってる男の子ってイケてると思う。