未知の世界





「え?」



私は雲雀さんにお茶を出しながら思わず聞き返す。


未来に来てからすでに1週間たっていた。









「だから、この後沢田綱吉の家庭教師しに行くから。」


「ツナくんの?家庭教師?雲雀さんが?」


「だからそうだって言ってるでしょ。」




雲雀さんはお茶を飲みながらなんでもないことのように言った。














机の上には難しそうな本がある。

私には到底理解できそうにもない。









―――ツナくん、大変だな。






私はツナくんのことを思い、苦笑いする。


雲雀さんのことだから殺すまではいかなくとも、

ボロボロになるまで攻撃するだろう。











「そろそろ行くよ。」






雲雀さんは湯飲みを置いてそう言うと立ち上がった。









「行ってらっしゃい。」





私にできることは笑顔で送り出すことだけだと思うから。

少し寂しいと感じても我慢する。






そんな私の気持ちを察してか、

すぐ戻るよ、と言って彼は部屋を出て行った。










―――この2日後、雲雀さんとの戦いの中で、

    ツナくんが新しいグローブを手に入れたことを知ることになる。
















湯飲みを洗ったあと、自室に戻った私はその部屋を改めて見渡した。



好きに使っていいよと言われたその部屋は、

まるでもとから私の部屋だったかのようにしっくりくる。








おかしいほど違和感がなかった。






おそらく、この部屋は10年後の自分の部屋だろう。


その証拠に見覚えがある本が本棚に、

見覚えのある服がクローゼットに、それぞれあった。












「・・・ん?見覚えのある?

 ってもしかして中2から大して背伸びてないの?」




ただでさえこの時代の雲雀さんは背が高いのにと

変なところでテンションが下がる。












―――10年後の自分は雲雀さんのそばにいられているのだろうか?









そうだったらこんなに嬉しいことはない。






そう思うはずなのに、複雑だった。








この時代の雲雀さんを見たときに感じた、

寂しさのような感情。












彼の背中が、遠かった。













私」はぶんぶんと顔を振った。





「考えてもしょうがないもんね。」








ツナくんたちはミルフィオーレに対抗するために

特訓を続けてるらしい。


雲雀さんはおそらくそのためのカテキョーだろう。











「雲雀さん・・・」





私はこの時代ではなく、過去の、私がよく知っている雲雀さんを思い出す。





「きっと心配してるだろうな・・・お母さんもお父さんも。」




いつになったら戻れるのか、見当もつかないまま、

私は途方にくれていた。

















「ただいま。」


「あ、お帰りなさい!」




帰ってきた雲雀さんの顔も見るととても機嫌のよさそうな顔をしていた。


昔と変わらなければ、

相手が弱かったときには雲雀さんはつまらなそうな顔をして帰ってくるはずだ。







「・・・楽しかったんですか?」


「まぁね。10年後の草食動物とはほど遠いけど、

 まぁまぁ楽しめたよ。」




雲雀さんはスーツのジャケットを私に手渡しながら答える。


私はそれをハンガーにかけた。




―――これじゃまるで夫婦みたい。



そう思い、赤面する。







「(自分で自爆してどうするのよっ!)」


「どうかしたのかい?顔が赤いけど。」


「い、いやっ、なんでもないですっ!」


「・・・?そう。」



彼はそれ以上は聞いてこなかった。





「・・・そうだ。明日、外へ出てみるかい?

 さすがに1週間もこの中に缶詰だとイヤだろう?」


「え!?いいんですか!?」


「もちろん、僕もついていくけどね。」


「はい!」











笑顔で答え、はしゃいでる私は

雲雀さんが複雑そうな顔で私を見ていたことに

まったく気がつかなかった。





















(あとどれだけの時間、彼女と一緒に過ごせるだろうか。)