戻れない過去





カコン       カコン



















ししおどしの規則正しい音が聞こえる。














「着替えてくるから、ちょっと待ってて。」




そう言って雲雀さんは出ていってしまった。






部屋の壁には「唯我独尊」の文字。


まるで時代劇の中に迷い込んだみたいだ。





















「待ったかい?」


「!?」






戻ってきた彼を見た私は思わず顔を伏せてしまった。


着流しを見事に着こなした彼の胸元は大きく開いている。













「・・・まさか10年前の君に会えるなんてね。」


「え?じゃあやっぱりここは・・・」



座りながら言った彼の言葉に思わず顔をあげる。





「そう。君がいた世界の10年後の世界。」


「やっぱり・・・」







うすうす感じてはいた。




おそらくランボちゃんが持っているという10年バズーカのせいだろう。




だが・・・






「・・・10年バズーカって5分たったら元の世界に戻るんですよね?」




ツナくんから聞いた話だと、

ランボちゃんは時々10年後の自分と入れ替わるらしい。5分だけ。







「だったらどうして私は戻らないんですか?」


「草食動物たちと同じだろうね。」


「ツナくんたちと・・・?」


「彼等も元の世界に戻れてないよ。」


「彼等・・・あっ!」



雲雀さんの言葉で重要なことを思い出す。



「他のみんなもここにいるんですか!?

 京子ちゃんとかハルちゃんとか・・・ッ!」


「彼女たちもここだよ。

 おそらくボンゴレ側のアジトだろうね。」


「よ、よかったぁ・・・」






ツナくんたちと一緒なら安心だ。


私は少し安心する。




だがまだ聞きたいことはたくさんあった。






「どうして獄寺くんたちが襲われていたんですか?」


「ボンゴレ狩りだよ。」


「ボンゴレ狩り・・・?」


「そう。今、ボンゴレファミリーは壊滅状態だ。」


「え!?」


「ミルフィオーレファミリーっていうマフィアがいてね。

 彼等がボンゴレを壊滅させようとしている。」


「ミルフィオーレファミリー・・・」


「ボンゴレにかかわったすべての人間と彼等の友人、家族が

 ボンゴレ狩りの標的だ。」


「ってことは京子ちゃんたちもですか!?」


「・・・君もね。」


「そんな・・・」







呆然とする私を見ながら雲雀さんは言った。






「僕はボンゴレがどうなろうと構わないけど、

 君まで巻き込まれるとなると話は別だよ。」


「雲雀さん・・・」







彼は私のことを心配してくれている。


それだけで少し心が満たされるのだった。














しかしまだ一つだけ疑問がある。









「どうして過去に戻れないんですか?」












雲雀さんは答えなかった。



知らないのか、それとも言いたくないのか。






























「・・・今から草食動物たちのところへ行くけど、君も来るかい?」



雲雀さんは私の質問には答えずに言った。












「え?あ、はいっ!」








私がそう答えると彼は少し笑った。




























―――その顔は、10年前と全く変わらなかった。