未来への序章





あのヴァリアー戦から1週間後。

並盛町は元通り平和.............には戻らなかった。




ツナくんにリボーンちゃん、山本くんにご獄寺くん、

京子ちゃんやハルちゃん、ランボちゃんやイーピンちゃんまで、

この町から忽然と姿を消してしまったのだ。




雲雀さん曰く、京子ちゃんのお兄ちゃんは彼等を見つけるために

あちこち走り回っているらしい。


その雲雀さんはというと、並中生が行方不明ということが

気に食わないらしく、草壁さんたちに探させているようだ。




「ホント、みんなどこに行っちゃったんだろう。」


私は雲雀さんの待つ並中へ向かいながらふとつぶやいた。


いつもだったら5人で歩いている通学路はいつになく淋しい。




「きっと大丈夫........だよね。」




そう。きっと大丈夫だ。彼等なら。


私はツナくんたち―――ボンゴレ10代目とそのファミリー――のことを

思い出していた。



                *



私がすべてを知ったのは2週間ほど前――ちょうど雨戦が始まるころだった。




何かがおかしい。




そう気づいたときにはもうヴァリアー戦は始まっていたのだろうか。






そのころから金髪の青年がよく雲雀さんに会いに来るようになった。

髭を生やしたスーツの人を連れて。

彼等は顔をあわせるたびに戦っていたようだ。


一度、その青年と雲雀さんに、

いったい何をしているのか、何が起こっているのか、

と聞いたことがある。

青年――あとでディーノさんという人だということを知った――は

「何でもねぇって!っていうかお前、風紀委員か?大変だなぁ.......」

何だかキレイにかわされてしまった。

雲雀さんはディーノさんを一瞬睨んだが、何も言うことはなかった。





ある日、いつものように応接室で書類整理をしていると

突然雲雀さんが声をかけてきた。



「亜姫、校内の見回り行ってきてよ。」


「見回り.......ですか?」


「何?文句ある?」


「えっ?あ、ないですよ!じゃあ行ってきますね。」



少し納得できなかったが断る理由もなかったので

私は素直にしたがって応接室を後にした。






廊下のかどを曲がったところで

ケータイを応接室に忘れてきたのを思い出した。




雲雀さんが電話をしてきたらいけない――――




そう思って私は応接室へ引き返した。





応接室の扉を開けようと思ったとき、

誰かの話し声が聞こえた。

私は自然と聞き耳を立てた。







「まさかお前から話してくれ、って言うなんてなぁ。」


「どうでもいいからさっさと話してよ。」


「まぁ落ち着けって.......ってわかったよ!話すから!殺気とトンファーをしまえ!」



そう言ってディーノさんは話し始めた。



「まずはこっからだな。

 イタリアにボンゴレファミリーっていう

 でっかいマフィアのファミリーがあるんだが、

 ツナはその10代目ボス候補なんだよ。

 リボーンはツナを立派なマフィアに育てるために............」





私は一瞬で凍りついた。


ツナくんが........あのツナくんがマフィア?





それからディーノさんはすべてを話した。

ボスには6人の守護者がいて、山本くん、獄寺くん、

京子ちゃんのお兄ちゃんとランボちゃん、そして雲雀さんが

そうだということ。

今、ヴァリアーというボンゴレの暗殺部隊と後継者争いをしていること。

京子ちゃんのお兄ちゃんは勝ったが

獄寺くんとランボちゃんは負けてしまったということ。


そしてボンゴレリングのこと。




ディーノさんがすべてを話し終えた後、

雲雀さんはこう言った。






「そう。..........亜姫。そこにいるんでしょ?出ておいで。」






私は体をビクッと震わせた。

彼は、雲雀さんは気付いていたのだ。






私はゆっくりと扉を開けた。



「え?え?え!?」


どうやらディーノさんは気付いていなかったらしい。



雲雀さんはじっと私のことを見つめていた。

すべてを見通しそうな、鋭い眼で。



「.......見回りに行ってって言ったよね?」


「ケ、ケータイを忘れちゃって.......」


震える声で私は答えた。


「まさか聞いてたなんて..........悪いことしたなぁ.......」


ディーノさんは一人でうなだれていた。




「亜姫ちゃん........だったか?

 君を巻き込むことは避けたかったんだか、

 こうなってはしかたがない。

 このことは誰にも話さないでくれるか?」


「はい...........」


「これでいいだろ?ボス。」


「あぁ........そうだな........」



スーツの人――ロマーリオさんの言葉に私は頷いた。


頷くしか、なかった。









「ごめんなさい......聞いちゃいけなかったんですよね。」


「まぁね。」


「でもツナくんたちがマフィアなんて............」


私はうなだれてつぶやいた。

マフィアなんて言葉が到底似合わない彼等の顔を思い出しながら。




雲雀さんは一瞬黙り込んだ。そしてある言葉をくれたのだ。


一生忘れない、忘れることなんてできない、あの言葉を。






「僕はマフィアなんて興味ないし、草食動物たちと群れるつもりもない。

 ただ......君を傷つけようとするヤツは何人たりとも咬み殺す。

 だから心配しなくてもいいよ。」