映画「ストックホルム、ペンシルベニア」みんなかわいそう | 休日の雑記帳

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鑑賞した映画や書籍の感想記録です。
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制作年:2015年

制作国:アメリカ

 

犯人以外誰も悪くないのに、みんな上手に幸せになれないのがもどかしく、切ない作品でした。

 

☆あらすじ☆

 

4歳の時に誘拐され、17年間地下に監禁されていたレイア。無事に発見され両親の元へ返されたものの、ほとんど一緒に暮らした記憶のない両親との新しい暮らしにレイアは苛立ちと戸惑いを覚えていた。

 

お勧め ★★★☆☆

 

不幸中の幸いなことに、レイアを誘拐した男は狂人ではあったものの、彼なりにレイアを愛し、大切に育てていたため、見るに堪えないような陰惨な誘拐事件とは異なり、その点は安心して鑑賞できました。しかし、いわゆる「ストックホルム症候群」となって犯人を実の親よりも慕うレイアの戸惑いと、やっと帰ってきた娘と親子関係を築けない両親の葛藤には痛ましいものがありました。

 

以下、ネタバレを含みます。

 

 

 

 

 

 

 

 

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物心ついてから成人を過ぎるまでの長い時間、誘拐犯の男、ベンを実の親のように慕い、愛して暮らしてきたレイア。地下に監禁されていたため、ベン以外の人々との交流もなく、世界の全てがベンとの日常で構築されていたレイアにとって、急に地下から出され、警察に事情聴取され、マスコミに晒され、見知らぬ夫婦の元で実の娘として共に暮らすことを強いられたことは苦痛でしかありませんでした。あまつさえ、出会う人々みんなが愛するベンを悪人として扱っているわけで、ベンに愛されて育てられてきたと感じているレイアにとっては、地下から解放されてから出会った人々の方がよほど敵に見えていたようでした。

 

レイアの両親は一日千秋の思いで娘の無事を祈り続け、ようやく無事の再会を果たせたにも関わらず、当の娘はよそよそしく、自分たちに心を開くどころか逮捕されたベンを恋しがっているようなそぶりに次第に焦りと苛立ちを募らせていきます。

 

ご両親の気持ちも痛いほどわかります。かわいい盛りの娘を奪われ、愛し育てる楽しみを奪われ、ようやく戻ってきた娘は、この世で最も憎い犯人を庇い、愛している始末。やるせない憤りを隠せない母親と比べ、父親はもう少し冷静で、時間をかけてレイアとの関係を再構築しようと妻に提案しますが、母にとってはレイアの態度も夫の余裕も受け入れがたいものでした。

 

女性が産む性である以上、子供に対する感情の強さはどうしても母親の方が父親より強くなってしまうのは道理でしょう。どちらがいいとか悪いとかではなく、母親の余裕のなさは、命を懸けてお腹を痛めて出産した経験上、仕方のないものだと思います。産んでもらう性である男性よりも、冷静さを失うこともあるでしょう。そんな温度差の中で、夫の冷静さは娘に対する愛情不足ゆえの冷たさのようにも見え、レイアが戻ってからは夫婦の仲までも危うくなってしまいました。

 

そんな母の焦りはますますレイアの心を閉ざし、その態度がさらに母の焦りを増幅して、親子の関係は日に日にこじれていってしまいます。挙句、母はレイアを拘束、監禁して自分に従わせようとする始末。これでは誘拐犯のベンと一緒、いや、若干の暴力を伴ってしまった以上、ベンより母の方がレイアにとってはよほどひどい人物となってしまいました。

 

逆効果にしかならないとわかっていても、どうしても気持ちを止められない母親の心情も、そんな母に親子としての絆を感じられず、拒絶するレイアの気持ちもよくわかるだけに、やるせない気持ちになる作品でした。犯人以外誰も悪くないのに、根っこにあるのは愛のはずなのに、うまくいかない。みんなの張り詰めたような心の痛みが描かれていて、奥深く、悲しい映画でした。

 

やがて深夜に窓から抜け出し、家を後にしたレイア。この後彼女はどこかの誰かとして、人知れず暮らしていくのか、それとも見つかって両親の元へ連れ戻されるのかわかりませんが、17年の時を経て取り戻せた娘から去られてしまった母はいったいどんな気持ちになってしまうんだろう、という点が気がかりでした。みんなそれぞれに苦しく、哀しんでいるわけですが、とりわけ母の苦悩が一番大きいのではないでしょうか。

 

この家族に安らぎと幸福が訪れることを願ってやまない。そんな作品でした。