在る時、時の紀州藩の藩主であられた徳川吉宗公は、在る御殿様の姫君を娶られ祝言をなさった。
その姫君の御実家の御殿様の屋敷には金銀財宝の御蔵は勿論のこと、米の御蔵が建て尽くされていた大変裕福な御殿様であった。
城内に姫君一行が花嫁行列をなして、いざ入城なさったが、姫君がお乗りになっている御輿を担ぐ者も、嫁入り道具を持つ者も、御側仕えの者も、皆揃って天狗だった。
たいそう驚きなさった吉宗公は姫君にお聞きになった。
姫君、この行列は何事ぞ。
余の見る目がおかしくなければ、余に見えているのは皆全て天狗ではないか。
姫君には何の因縁があって御側に天狗を侍らせて何故ゆえにそなた配下にしておるのか。
そこで姫君は答えた。
御殿様、確かに私の御側の者は皆全て天狗で御座います。
御殿様の目はおかしくなってなどおりませぬ。
代々我が一族には天狗役使の秘法が密かに伝わっております。
この秘法は、日本国中大小の天狗総てを我が配下として侍らせ役使出来る神伝の秘法とされておりますが、元は天狗界出伝の神伝の密法とされ、天狗界で最も秘すべきものとされており、当家に代々由縁がありてこの秘法の巻物が相承されて来ました。
されど此度、御殿様へ嫁ぎますので父上がこの天狗秘法の巻物を第一の嫁入り道具として携える様にとお命じになりましたので、この神伝秘密の巻物と共に、我が配下の天狗の衆も付いて来たので御座います。
願わくば、紀州徳川家の為に神伝秘密の天狗法を紀州徳川家の家伝の秘法として代々密かに受け継がれ、子々孫々の代まで紀州徳川家の御為に我が一切の配下たる日本国中大小の天狗の衆をお召し抱えならんことを心より願ます。
吉宗公はたいそうお喜びになり、このことをお受けなさった。
この秘法の御蔭で吉宗公は第八代徳川将軍となられた。
それより紀州藩の代々の藩主にこの秘法は密かに相承されたと謂う。