私は、早く終わればいいと思ってた。


終わるっていうのは何もかも。朝、目が覚めるのが苦痛。部屋の中にいたって、学校に行ったって、何をしても考えるってことだけで全部苦痛。人と話したり、ましてや誰かを好きになるなんてありえない。

心を開いて、なんて馬鹿なカウンセリングの先生の話を聞くことだって、一生懸命暇つぶしなんだって考えてた。私が何なのか、小さいころはどうだったのか、中学校に入ったら、高校生になった時、いちいち全部思い出せって、それが一番の苦痛だって何でわかんないの?

先生がいい人だってことも苦痛のひとつだった。いつも笑顔、いつもゆっくり気長に話を聞いてくれる、絶対怒らない、いつも私の味方。


「何でそんなことするの!ほっといてよ!」


って言ってあげたら、すっきりしたのかな。

そんなふうにさ、先生のこと考えることだって辛かった。だから先生、先生を悲しませたくてこんなことしたんじゃないよ、私がそういうことに苦しみやすい人間だったってこと。

だから先生は悲しまないでね。めんどくさい患者がひとりいなくなったって思ってセイセイして。


先生がそう思ってくれてるって想像するのは、苦痛じゃない。


だから先生お願い、最後くらいは辛くないなって、苦痛じゃないなって思いたい。

ごめんね、本当は感謝してるんだ。本当だよ。


最後まで話を聞いてくれてありがとう。本当にごめんね、先生。

第一章  天国の待合室




私は、残してきた娘のことが心配でなりません。とは言え娘はもう成人していて、私がこんな場所からおせっかいを焼いたところでありがた迷惑な話なのかも知れませんが。

あの日はちょうど雨だったのです。だから私は妻に電話を入れました。すると、珍しく家に帰っていた娘が電話口に出たのです。最近はあまり話もしていなかった娘に、

「駅まで傘を持ってきてくれ」

なんて言い出しずらかったのですが、そんな気弱な私の気持ちを察してか、娘のほうから、

「駅まで迎えに行ってあげる」

なんて優しい言葉が出てきました。

私は変な想像をしてしまいました。駅に迎えに来てくれた娘と、濡れたアスファルトの上を歩きながら、たわいもない話で盛り上がる。大学ではちゃんと勉強してるのかとか、彼氏はいるのか、なんて。私の想像の中で娘は、

「お父さんも働きすぎなんじゃないの」

なんて励ましてくれたり。

そう考えていたら、この突然の大雨に感謝の念すら覚えました。だから娘の姿が大通りの向かいの歩道に見えた時には、嬉しくなって年甲斐もなく娘の元に走り出していました。その直後、急ハンドルを切って進入してくるトラックがいるなんてことにも気づかずに。

だから私はひとつだけお願いしたいのです。私は、娘に一言だけ伝えたい。ただそれだけです。君の目の前で死んでしまった私を、どうか許してほしい。幸せな君の未来が、それを一番願っている私のせいで、曇り、澱んだ、悲しいものにならないように、君はいつでも笑っていてください。

私の願いは、ただそれだけです。