#28 しら鳥は哀しからずや  | 吉岡 暁 WEBエッセイ ③ ラストダンス

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WEBエッセイ、第3回

 

若山牧水は、23歳の時にこんな歌を詠んだ。

 

しら鳥は

哀しからずや

空の青 

海のあをにも

染まずただよふ

 

諸説はあるが、いかにも23歳という若さでしか謡えない孤独、哀感、感傷、あるいは逆に歌人としての気負いが噴出した作品とでも言うべきか。還暦過ぎたら、とてもこんな詩趣は出て来ないだろう。

 

さて、試論、文学論などこの際どうでもいい。書いたところで興味を持って読む人がいるとも思えない。「若山牧水?何それ?ミネラルウォーターの新製品?」くらいのものか。

ポイントは、43歳で死んだ明治期の歌人のことなど知らなくても、「しら鳥は哀しからずや」を読んで即座に理解する若者も必ず存在するという事実だ。

当然だろう、これは孤独であっても、自分自身の道を見つけた幸福な若者の歌だから。

いつの世でも、どこの国でも、こういう歌を本能的に理解する若者は必ずいる。

だから、芸術は亡びない。

だから、人類は自滅しない。

真善美への希求が、ぎりぎりいっぱいのところで、人を自己否定とペシミズムから救っている。

 

      *

 

そんでよう。

人がうまれてから死ぬまで、知り合える人間の数なんか高が知れてら。

な?

だからよう、人を選べよな。

爬虫類や鳥類の脳ミソと同量程度の想像力しか持ち合わせていない奴。

いつも泥沼に漬かって動かない蟇ガエルくらいの好奇心しかない奴。

人が苦痛でのたうち回っていても、自分の水虫の痒みの方が気になる奴。

この世には実にいろんな有象無象が棲息してるわけだけど、爬虫類や蟇ガエルや水虫菌に付き合っても良い事はないぜ。だろ?

それよりも、

空の青、海の青にも染まずにひとり漂ってる鳥を探すこった。

もっともその鳥が、おめえなんか見向きもしねえって場合もあるけどさあ。

 

 

                                                                               (2023.12.23)

 

 

 

 

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