#9 おもしろき事もなき世をおもしろく~高杉晋作にはなれないけれど | 吉岡 暁 WEBエッセイ ③ ラストダンス

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WEBエッセイ、第3回

     

 

「おもしろき 事もなき世を おもしろく」と嘯いたのは、高杉晋作だ。

長州藩の穏やかな性格の文官の長子として生まれながら、やることな

すこと奇矯奇抜で、生涯少しもじっとしていず、疾風迅雷と言われた。

明治維新の立役者の一人だが、維新後に栄耀栄華を極めた他の大物達

と比べて、極めて鮮烈かつ爽やかな印象を残す。

その筈だ、歴史上やるべきことをやって、27歳でさっさと死んだ。

 

革命家であったこの若いサムライが、「おもしろき事もなき世」と嘯

くその感覚の新しさに改めて驚かされる。しかし裏返せば「つまんね

え世の中だ、くそダリいわ・・・」と呟く現代の青年と同質の衒(て

ら)いも感じられる。いつの世でも、衒いは青年のものだ。

       

         

 

ぶっちゃけ、今も面白くない世の中だ。

ぶっちゃけ、毎日会社に通いながら(オレは、私は、一体何してんだろ

う?)と自問する青年も少なくないだろう。

ぶっちゃけ、鏡を見ながら髪を梳かしている時、(ああ、オレは、私は、

所詮ここまでなのか)と、苦いオクビが湧き上がる瞬間もあるだろう。

そんな時、流されるままに倦怠、怠惰、無気力、潜在・顕在的自己否定

の滝つぼに落ち込んではいけない。

怠惰、無気力、自己否定はやがてあなたの親しい人達に感染するから。

特にあなたが親であれば、あなたの子供にうつるから。

 

ぶっちゃけ、確率論から言っても、人は大抵平々凡々に生きて一人で死

ぬ。高杉の様に、三味線片手に馬上の人となり、

   三千世界の烏を殺し、主と朝寝がしてみたい

とかいう怪しげな自作の都都逸を唄いながら戦場に赴く、なんて安手の

時代ドラマみたいなことは生涯起こらない。

 

ぶっちゃけ、自分に見切りをつけた後の人生は、嫌というほど長い。

だから、対処法を一つ提案する。

自分より若く、長い将来があり、あなたがこの上なく愛しいと思える存

在の、控え目な肥やしになることだ。これを偽善的ヒューマニティーと

捉えてはならない。

どうしようもない放蕩児の暴れん坊と言われた高杉晋作には、この一人

息子に終生鼻っ面を引っ張りまわされた、気の良い、生真面目な、優し

い両親がいた。このつましく平凡な夫婦が、結局歴史を変えたのだ。

 

                                                              (2023.10.30)

 

 

 

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