スダンの亀 -2ページ目

スダンの亀

CardWirthリプレイ「米シック亭」の「スダンの亀」です。
基本テキトー、あと脚色99%原作無視のリプレイでお送りできればと思っております。
捏造の許せない方はブラウザバックでお願いします(^^;)

 色のくすんだ部屋、カーテンの隙間から時折入り込む強い日差し。

 そして充満する、葉巻の煙。

 

 その中で、ワシは出されたコーヒーを一舐めし、

 味を……いや、安全を確認してからグイと口に含む。

 もはや、このようなことをする必要などないとはいえ、

 冒険者だった頃の習慣は、なかなか抜けるものではない。

 

 大きなテーブルを囲む面子は、よく見知った連中。

 大柄な男、立派な髭の男、それから恰幅のいい奥方。

 その一人一人が、このリューン近郊で冒険者の宿を経営する、いわば経営者仲間。

 全員が、この冒険者ギルド――といっても、”冒険者の宿”ギルド、と言った方が近いかもしれない――の組員でもある。

 

 皆が数分で読み飛ばした資料に、ワシはゆっくり、じっくりと目を通してゆく。

 それは各宿の主だった仕事内容とその数、成功数やこなしたパーティ名など

 大方の宿の現状戦力が一目に分かる、冒険者ギルドの定期報告書だ。

 もっとも、こう言った資料をきちんと理解するのには、長い経験と知識が必要不可欠ではあるが。

 

「最近の若いのは、どうもねぇ」

 

 髭の男が呟く。

 うんざりするほど繰り返された台詞。少なくとも、この男は十年来

 同じような台詞を使っている。

 

 その言葉に、男の宿の資料をもう一度ちらりと覗く。

 結果だけ見れば確かに男のいう事はもっともで、

 その宿の実績は緩やかながら右肩下がりであり、

 徐々に冒険者の人数も、こなせる依頼の数も

 減少の一途をたどっているらしい。

 

(経営者があれではな……)

 

 質のいい冒険者との出会いは運。そういう側面も、確かにある。

 

 だが、実際にはそうではない、とワシは思う。

 というのも、英雄的な活躍が必要な冒険など、夜空の星の中に、月や太陽を探す様なものだ。

 その光は眩く見えても、数で言えば圧倒的に、地味な依頼が多い。

 

 護衛、ゴブリン退治、下水掃除、ペット探し……

 そう言った下積みのような依頼がほとんどだ。

 

 そして、そう言った、真面目にやれば、多くの冒険者がこなすことのできるような仕事を

 しっかりと冒険者にこなさせる。そう言う風にモチベーションを保つ。

 それも、宿の一つの仕事だといえるだろう。

 

 そう言う意味では、若い冒険者の質を嘆くなど、言語道断。

 自らにマネジネント能力が無いと、公言して回っているようなものだ。

 

(そう言う連中に仕事を”させる”ことが、お前らの仕事だろうに)

 

 ワシはもう一口、コーヒーをすする。

 

 

 

「どうだい、米シックさんは、売り出し中の冒険者なんかいるのかい」

 背の高い男が、ニヤニヤとしながらこちらへ問いかける。

「ここんとこ業績もいいようだし、もしよかったら紹介してもらいたい」

 

(何が業績がいい、だ)

 

 もちろん男の言葉は、ただの嫌味。

 ウチの宿からは、短い期間で二つもパーティの全滅が出ている。

 あまり芳しい状況とは言えないだろう。

 

 少し前であればスゴ腕のパーティも常駐していたが、

 奴らはすっかり貴族共のお抱えになってしまって、

 宿で依頼をこなすことは稀になってしまった。

 宿としては、かなり厳しい状態なのだ。

 

 それでも、ここで引き下がれば、宿の力関係が大きく崩れてしまう。

 言葉負けするわけにはいかない。

 

「ええ、幸いウチの若いのに、生きのいいのがおりましてな。

 短い間に、新鋭パーティとしてはかなりの功績を上げております。

 近々、中堅に格上げしようかと思ってるんですよ」

 

 ワシの言葉に、男の眉がピクリと動く。

 

「ほう、それはめでたい。米シック亭の親父さんが推薦というのは、かなりのものだ。

 その業績の中身を教えて頂けませんか」

 

 男は、言葉のアテが外れて、ワシに噛みつく。

 ワシの言葉に矛盾の一つでも見つけて、ほら吹きだと笑い飛ばすつもりなのだろう。

 

 生憎だが、ワシの言葉は本当だったわけだが。

 

「指名手配犯マハガスの討伐、ヒドラにスキュラ。変わり種で、魂喰やらビッグフットやら。

 実にバラエティに富んだ戦闘経験を積み、一人の死人も出していない

 紛うことなき、うちのルーキーですよ」

 

 その言葉に、部屋中がざわめく。

 当然だろう。どれもこれも、情況が悪ければ中堅パーティでさえ

 犠牲者を出しかねない強敵ばかり。

 それをルーキーが撃破したとなれば、宿にとっては大きな話だ。

 

 男は「それはそれは、すばらしい」と口では穏やかに笑いながら

 震える手で資料を握りしめ、話のアラを探す。

 

 もちろんワシの話は全て本当のコト。

 探られて痛いハラなど、あろうはずもない。

 

 

 

 ……ただ、一点を除いては。

 

「ちなみに、そのパーティのゴブリン撃破数はおいくつなのですかな。

 いやなに、米シックの親父さんの話を疑っている訳ではないのですが

 何分、宿のゴブリン撃破数が少ないように感じられましたので」

 

 ……来たか。

 

 

 

 ワシが懸念していたただ一つの要因。

 それが、ゴブリン退治に関する話題だった。

 

 通常、ルーキーの仕事といえば、ゴブリン退治。

 そう言った大物が排出される際には、ほとんど当然のように

 ゴブリン退治の攻略数が倍増する、というのが定説なのだ。

 

 さて、この質問をどのようにかわそうか。

 

 

 

 わしは、おどけたように額を叩いて言う。

 

「ああ! なるほど。いや、失礼失礼。これはウッカリしておりました。

 ゴブリン退治など彼らには簡単すぎるでしょうから、あえて回したりは

 しておりませんでした」

 

 本当は、違う。

 ヤツらは、こともあろうに2度も、ゴブリン退治を失敗しているのだ。

 もっとも、そんなコトは口が裂けても言えるワケがないが。

 

 ワシはそのまま続ける。

「しかし、彼らなら並みの中堅以上にスムーズに

 ゴブリン退治であろうと解決できるだろうことは、保障いたしますよ」

 

 男は見え透いた作り笑いで、ワシを威嚇する。

 

「しかし、実績と予想は違いますからなぁ。

 ゴブリン退治もしてない冒険者を中堅と認めるなど

 どこの宿でも前例がないのではありませんか?」

 

 こうまで言われれば、売り言葉に買い言葉である。

 ワシは宿の面子にかけて、資料をバンと、机に押し付ける。

 

「よろしい。では、彼らにもゴブリン退治を経験させましょう。

 それを実績に加えれば、晴れて中堅として売り出しても

 なんの文句もありますまい」

 

 

 

 会議から戻る道すがら、ワシは額の脂汗を拭う。

 次の依頼、奴らに失敗は許されないのだ。

 宿の威信にかけて……!!

 

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 いつもの米シック亭の、いつもの酒場。

 その一角に、一風変わった空間がある。

 

 そこには、宿に登録してあるメンバーのネームプレートが全員分並んでおり、

 パーティ事に仕訳されている。

 

 一見、ただの出席簿にも見えるそのネームプレートだが、

 その宿に登録している冒険者にしか分からない秘密がある。

 

 ピンの色や数、配置などによって、現在の親父さんからの評価が

 暗号的に分かるようになっているのだ。

 

 冒険者の間では密かに”レベル”と呼ばれる代物だ。

 

 

 

 たとえば、俺が先日まで、つまり一人でドブ攫いばかりしていたころのレベルは、2。

 レベル2というのは、一般的な成人と同程度の力がある、という意味だ。

 その力というのは、もちろん純粋な筋力の事ではない。

 

 筋力、知力、経験。

 あらゆる能力を親父が客観的に判断しランク付けをした

 「生き残り力」とでも言うべき値なのだ。

 

 その俺の評価も、今や3に上がっている。

 俺だけじゃない、ベルゼやクロネも同じくレベル3にランクアップしているし、

 初めはレベル1に認定されていたシュットやイヒトも、レベルが2にアップしていた。

 

(認めてくれてんのかな、多少は)

 

 大人になっても、他人からの評価とは嬉しいもの。

 まして、いつも世話になっている人間の評価であれば、なおのことだ。

 

 

 

 そんな親父の評価の中で、俺にはひときわ心に引っかかっているものがあった。

 それは……

「ロイナのレベルが、2?」

 

 たしか、ロイナやシュットが元いたパーティ”ジ・エンド・ドラゴン”は

 そのほとんどが貴族からの依頼で、簡単な依頼ばかりをこなしていたはずだ。

 当然、連中のレベルは1。

 同年代ばかりで組まれているパーティで、

 一人だけレベルが違うと言うのも、珍しい話だ。

 

 

 

 そのことを、外出中の親父に代えて、ウェイトレス、通称”娘さん”に尋ねてみる。

「たしか……ロイナさんは、”教団”から帰ってきた数少ない冒険者だったからだと……」

「教団?」

 

 リューンには、もちろん聖北以外にも、細々と信仰される異教が、いくつかある。

 田舎では、そのほとんどは異端審問にかけられてしまうが、

 リューンのような人々の行き交う都市で強烈な取り締まりをしてしまうと

 下手をすれば戦争になりかねない。

 

 いわば暗黙の了解ということで、大きな問題を起こさなければ

 聖北以外の信仰をしていても、一応生活をしていくことは可能なのだ。

 

 とはいえ、その中には、人々の生活をとんでもなく脅かすような連中が

 潜んでいることも、事実ではある。

 

 俺の頭には、テロ行為を繰り返す

 恐ろしい教団の名前が浮かぶ。

 

「……まさか、クドラ?」

 

 しかし、娘さんは首を傾げる。

 

「いや……ナンダカカンダカっていう、聞いたコトないような宗教で。

 でもマスターも、『アイツらにだけは関わるな』って……」

 

 親父が”関わるな”と強く言う、それだけの宗教……

 いったい、どんな連中なのか。

 

 

 

 丁度、二階の部屋から、欠伸をしながら下りて来たロイナに、

 俺は思い切って尋ねてみる。

「教団ッスか。アレは、マジヤベーっすよ」

 ロイナはあからさまに嫌そうな顔をする。

「見学に来た人を、問答無用で洗脳しちゃうんスよ」

「洗脳!?」

 

 どうやら、その教団とやらは、俺が思っていたよりもずっと物騒な連中らしい。

 

「短い経文があるんスけど、それを口に出したり聞いたりすると

 どんどん洗脳されて、取り返しのつかないことになるんス」

「ち、ちなみに、その教団の名前は……?」

 俺の問いに、ロイナは一枚の安紙を取り出す。

「教団の名前にも、経文が入ってます。

 今から紙に書きますけど、絶対に声に出さないで下さいね」

 

 そしてロイナは、その茶色い紙に教団の名前を書いていく。

 

 

 

 が、その教団の名前が、あまりにも荒唐無稽なものであったため、

 ロイナの忠告も忘れて、俺はその名前を音読してしまう。

 

「……アッチャラペッサー?」

 

 何とも奇妙な文字の並びだ。

 どこの言葉とも違う、独特な響き。

 だが、一度見たら忘れられない、インパクトのある字面だ。

 

 なるほど、洗脳とはそういうことか。

 納得しかけた俺の目の前で、ロイナが髪を掻きむしる。

 

「あ……アチャー!」

「アッ」

 

 しまった! と思ったときには、もうすっかりその経文を読んでしまった後だった。

 ……とはいえ、俺自身、特に洗脳された様子はない。

 至っていつも通りだ。

 

「何かまずかったか?」

 俺がロイナに尋ねると、ロイナが高速で首を振る。

「ああああ! あんなにダメっていったじゃないスか! もうダメだ、ど、どうしたら……」

「おいおい、特になんてことないじゃないか。何をそんなに慌てて……」

 

 そう言いかけて、俺の視界にふと、娘さんが入る。

 その顔は、ひどく青ざめており、なにか不気味なものを見るような目で

 俺たちを凝視している。

 

 娘さんの口が、ガチガチと音をたてながら、開く。

 

 

 

「2人とも……どうしたんですか、その不気味な言葉ばかり使って……?」

 

 

 

 不気味な言葉?

 俺はそんなもの使っていないぞ。

 

 おれは娘さんの恐怖を和らげるように優しく微笑みかける。

「アッチャラペッサー?(どうしたんだい娘さん)」

「ひいぃぃぃぃ、そのへんな言葉使わないで!!」

「アッチャラペッサー、アッチャラペッサー!(大丈夫だよ、いつも通りじゃないか)」

「あ、アチャ……!?  な、なんで、私までッサー」

「アッチャラペッサー。アッチャラペッサー!(怖がらなくていい。さあ、一緒に祈ろうじゃないか!)」

「……アッチャラペッサー!(……はい!)」

 

 

 

 そこへ、親父さんが、力強く扉を開いて帰ってくる。

「留守を任せて悪かったな。おう、スダン。丁度いい、少し話が……」

「「「アッチャラペッサーアッチャラペッサーアッチャラペッサーアッチャラペッサーアッチャラペッサーアッチャラペッサーアッチャラペッサーアッチャラペッサーアッチャラペッサーアッチャラペッサーアッチャラペッサーアッチャラペッサーアッチャラペッサーアッチャラペッサーアッチャラペッサーアッチャラペッサーアッチャラペッサーアッチャラペッサーアッチャラペッサーアッチャラペッサーアッチャラペッサーアッチャラペッサーアッチャラペッサーアッチャラペッサーアッチャラペッサーアッチャラペッサーアッチャラペッサーアッチャラペッサーアッチャラペッサーアッチャラペッサーアッチャラペッサーアッチャラペッサーアッチャラペッサーアッチャラペッサーアッチャラペッサーアッチャラペッサーアッチャラペッサーアッチャラペッサーアッチャラペッサーアッチャラペッサーアッチャラペッサーアッチャラペッサーアッチャラペッサー」」」

「……」

 

 俺たちの洗脳は、親父が俺たちを殴り飛ばすまで続いたという。

 恐るべし、アッチャラペッサー教……。

 

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「で、俺たちにゴブリン退治の依頼を、と……?」

 

 俺たち、6人全員を集め、一通りの事情を説明した親父は、ゆっくりと首を縦に振る。

 その瞳には、普段はない切迫感がありありと浮かび上がっている。

 

「そうだ。ワシの眼に狂いが無ければ、もうとっくにお前さんたちは、

 そのくらいの依頼はこなせるはずだ」

 

 親父の言葉に、俺たちは顔を見合わせる。

 

 そ、そりゃあ、信頼してもらえるのは、俺たちだって嬉しい。

 いつも世話になっている親父の頼みだ、それだって応えたい。

 

 それでもすぐに「うん」と言えないのは、

 ことゴブリンについては、俺たちにも事情があるからだ。

 

 

 

 その事情というのは、言わずと知れた、2どに渡る、ゴブリンからの敗走、である。

 

「でも、前にも失敗してるし……」

 シュットが、不安そうに腕をさする。

「前回は、そこのバカが暴走したのが元凶ですもの。キチンと対処すれば、問題ないハズですわ」

 クロネがため息をつきながら答える。

「ふふ……リベンジってワケね! いいじゃない、燃えてくるわ!」

 ベルゼがパシリ! と、掌に拳を打ち付ける。

「ゴブリン……見たことない」

 イヒトは無表情でいう。表情に出なくとも、言葉に出てくれば興味の証だ。

「でもそれ、親父さんの都合じゃーん。ぶっちゃけロイナたちに関係なくね?」

 ロイナは爪の手入れをする。

 

 そして、どちらかと言えば俺自身、反対派だ。

 なんというか、ゴブリンに対してはすっかり苦手意識ができてしまったのだ。

 

 このメンバーになってから日も浅く、前回の失敗もある。

 無理に今戦わなくても、この先いくらでもゴブリンとやりあう機会なんてあるはずだ。

 

 そういうわけで、俺の勘定だと、賛成と反対が丁度3対3になってしまった。

(どうしたもんかね、こういう時は)

 期せずして意見が真っ二つに割れてしまった。

 こんな時、リーダーでも決めておけば鶴の一声、となるのだろうが

 生憎俺たちにそんな堅苦しい決め事はない。

 

 それはそれで、普段はやりやすいのだが、

 こういう時にしわよせが来てしまうらしい。

 

 

 

 俺が困ったように頭を掻いていると、親父さんがコトリと、

 カウンターの上に一本の瓶を取り出す。

 

 その、血のように赤い液体のなみなみと入った瓶を見て、俺は思わず唾を飲む。

「親父さん、それは……」

 すると、親父はフフンと鼻を鳴らす。

「ワシの秘蔵・アーシウムの赤じゃ」

 

 

 

 アーシウムの赤。

 

 500spは、冒険用の葡萄酒よりもさらに上等な、アーシウム特産の赤ワイン。

 その真価は、500spという大金を払ってでも「これが飲めるなら安い!」と

 飲む者をうならせてしまう、その味だ。

 

 詰まるところが、名酒、というやつだ。

 

 

 

 親父は残念そうにため息をつく。

「もしお前たちがこの依頼を引き受けてくれるなら、

 このアーシウムの赤、そして同じ農家が作る最高のブドウジュースを

 出してやろうと思ったんだがなぁ……

 お前たちが嫌だというなら、無理強いするわけにもいかんかぁ」

 

 その一言に、全員の眼が光る。

 

「水臭いぜ親父。俺たちが、親父の頼みを断るわけがないじゃないか。

 さあ、アーシウムを最高の状態にして待っていてくれ」

 

 かくして反対派はいなくなり、俺たちは足並みをそろえて

 ゴブリンが潜むと言う洞窟へと向かった。

 

 

 

「……ようし、待ってろよゴブリンども。

 三度目の正直、リベンジマッチといこうじゃねぇか!」

 俺は歩きながら、握りこぶしをギュッと固めるのだった。