ずいぶん前に、ラジオで高橋源一郎さんが紹介されていた一冊。
ジル・ボルト・テイラー著 「奇跡の脳ー脳科学者の脳が壊れたとき」
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奇跡の脳―脳科学者の脳が壊れたとき (新潮文庫)
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脳科学者として活躍していた著者が、37歳のある朝、脳卒中に見舞われる。左脳が損なわれていくその時に実際どんなことを感じていたか、どう行動したか、その後手術を経て8年間、どのような過程を辿って復活していったのか(元のままではなく、新しく機能を構築していった)が、記されています。もしも自分の身に脳卒中が起こったらというだけでなく、脳卒中患者の介助者にも、どのような介助が望ましいか参考になる。何より、宇宙飛行士の体験にも似た、脳の不思議の旅が面白い本でした。
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読んでいると夫が
「これはもう、科学ではないね」
(個人の体験であり、誰でもいつでも再現可能ではないという意味で)
と。確かに、個別的であることは無視できませんが。。
個性的なものこそ普遍的である
という逆説は、この本にも当てはまる真実だと思いました。
ジルさんと同じ道を辿ることはないでしょうが
本来誰の脳にも、ここに書かれた回復力が備わっていることに気づかせてくれます。
実は私がこの本を手に取ろうと思った背景には、父と祖父の思い出もありました。
小学1年生の時、私の父は出勤途中に交通事故を起こし、脳内出血のため7時間に及ぶ開頭手術を受けました。見舞いに行くと、大部屋には脳の外科手術を受けた人が何人かいて、付き添いの奥さんたちが
「うちの主人は脳卒中の手術が2回目で、
前の時性格が変わったけれど、今回はどんな風に変わるかしら?」
と話しているのを耳にしたのです。母曰く父も若干変わったようでした。私は6歳だったからそれ以前の父がどうであったかは勿論わからず、それが父だとすんなり受け入れていったのですが。。
次は17歳、受験の冬に祖父が脳卒中に倒れ半身不随になりました。それまでの祖父は、若い頃に坊さんであったのもあって厳格で怖いところもあったのですが、倒れて介護されるようになってからは、実に可愛いじいちゃんに変身したのでした。私にはそれが不思議と明るい記憶として、心に残っていたのです。
ジルさんの場合、左脳と言語中枢の機能が失われたのですが、このために肉体は地獄の苦しみでも、精神は至福の体験をしたのがとても印象的でした。
大きな鯨が静かな幸福感で一杯の海を泳いでいくかのように、魂のエネルギーが流れているように思えたのです。肉体の境界がなくなってしまったことで、肉体的な存在として経験できる最高の喜びよりなお快く、素晴らしい至福の時が訪れました。(本文より)
この状態に浸ったままでは、秩序だった社会生活に戻ることはできません。ジルさんは、お母さんの
「できないことではなく、どんな些細なことでも、できることに注目し、共に喜ぶ」
という献身的な介護を支えに、リハビリに必死に取り組み、左脳の機能を徐々に取り戻していきました。ただ、先の右脳の圧倒的な多幸感と安らぎを体験した後では、復活してきた左脳のおしゃべり(物語作家とジルさんは呼ぶ)がいかに自分自身を傷つけているかにジルさんは気づき、次の段階ではそれを意識してコントロールするようになります。左脳は(右脳とは違うやり方で情報処理をし相補的な働きをする)躾けることができると。これはまるでマインドフルネス、瞑想などで実践されていることと同じだと(ジルさん自身、涅槃に戻ると触れていますが)感じました。
からだが疲れていたり、精神的に参った状態にあるとき、つまり、油断しているときを狙って、否定的な思考回路が人を傷つけようと頭をもたげることに気づきました。脳が言っていることに注意し、その考えがからだにどのような感覚をもたらしているかに気づけば、自分が本当は何を考えたり感じたりしたいのか、意のままに選べるようになります。もし内なる平和を保ちたいなら、ぶれることなく、いつでも心の庭を育てなければなりません。そして、一日に何千回も、決意を新たにする必要があるのです。(本文より)
本の後半は、左脳と右脳の特徴に触れながら、つい否定的思考ループにはまってしまう自分の心を変えたいと思う時に、ジルさんが実践する方法や、負の感情との付き合い方なども書かれています。あらゆる思考が束の間の生理現象だということを知れば、その後の思考は意識的にやめることができる。
神経回路が全体としてうまく働くことで、世界を生き抜くために必要な能力が鍛えられる。わたしはそのことを遠い回り道をして学びました。(本文より)
脳卒中で多くを失ったけれども、失ったと同時にもっと多くを与えられていたことに気づく、その過程は感動的でした。
先日の"Don't think! Feeeel !"にも偶然繋がるものでもあり。。
これまで様々に説かれ、仏教の教えなどで読んで来たことを、
脳科学の基盤を持つ著者からまた新たな視点で教わったという気がしました。
あとがきに訳者の竹内さんは、
「本書はこれまでタブー視されてきた領域に
果敢に科学のメスを入れたと評価できるでしょう」
と書いています。
脳科学の研究は、心のどのくらい近くまで今来ているのかしら??
興味も湧きますが個人的には、まずは得た気づきを実践するのが肝心ですね。
ジルさんがメールの最後にいつも記すというアインシュタインの言葉、それと本書の最後の言葉を書き留めておきます。
未来の自分のためなら、今の自分を捨てる覚悟がある
アインシュタイン
社会の精神的健康は、その社会を創り上げている脳の精神的健康によって決まります。残念なことに、西洋の文明は、愛すべき平和な右脳の特性が存続するためには、まったくもって挑戦的な環境です。(中略)
あなたのからだは、50兆もの細胞の天才たちの生命力そのもの。あなただけが、一瞬ごとに、この世界の中でどのように生きるべきかを選ぶのです。どうか、ご自分の脳の中で起きていることに目を向けてください。自ら手綱を握って、人生という名の舞台に登場してください。明るく輝いてください!
