『人狼天使 Ⅰ』ウルフガイ第七弾!
メトセラ・プロジェクトとの闘いのためアメリカへと赴く前に、一時的に舞台は古代都市、ソドムへと移ります。
旧約聖書中に「天から硫黄と火をもって滅ぼされた」と記される、悪魔信仰に侵された背徳の街ですね。
冒頭、石造りの街並みを闊歩する「カルデヤのウル」の佇まいがリアリティに溢れていて、古代人たちの息遣いが感じられるようです。
荒くれ者の傭兵であるウルに、魂的には同一存在である現代の犬神明の意識が次第に重なってゆく様がめちゃ面白い。この時点で二者の意識が重なることにも、何か意味があるんでしょうね。
ヘブルの民の首長ロトは、神から告げられたソドムの滅亡をソドム王に警告し、怒りを買って投獄され、その二人の娘たちもアシラー神殿に捕らえられてしまう。
その娘たちの救出をウルに依頼したのが、親衛隊に取り囲まれたまさに危機的状況に降臨した、大天使アルカンフェル。
流浪の民であった数百名のヘブル人(ヘブライ人)たちは、一時的のつもりでソドムに逗留するうちに、やがて感化され、同化してしまう。
貧しいヘブル人は、富裕なソドム市民の生活レベルに追いつこうと必死で働いた。目標のすべては、ソドムの生活水準に到達し、追いつき、追いこすことであった。
ここに、戦後の日本国民を駆り立てた国民感情との著しいアナロジーが成立するようである。ヘブル人の精神の指標であった、神への信仰心、道義は捨て去られ、代わって物質経済の向上が唯一無二の目標と化したのだ。
この辺りはもうめっちゃ「深み」で、いろいろな意味での「雛形」として、この時点でソドムが物語に登場したことが理解できます。
信仰心をすて、物質主義に心を売ってしまったヘブル人たちの姿が、そのまま現代の日本人に重なる。
そして、彼らが同化したソドムの街は、文字通り滅亡の縁にあると…。
70年代以降の地球世界が、いつ滅亡してもおかしくない、危機的な状況をすり抜けてきたことを、暗示しているように思えます。
そして、親衛隊士との死闘の最中に、再び降臨する大天使アルカンフェル。(“アルカンフェル”とは“大天使”の意味で、別にガブリエルとも呼ばれる、七大天使の一人であることが明かされます。)
この辺りの描写は、ちょっと妙な言い方ですがリアリティに溢れていて、高次元の存在が三次元に顕現(実体化)する際の事象が、事細かに描かれています。
平井和正自身「天使に逢った」ことは何度か公言していて、もしかしたらここは、その実体験を元に文章化したものなのかも。単に「存在を感じた」というレベルではなく、犬神明がそうしたような、完璧な意志の疏通があったとしたら、神話レベルの大きな神秘体験ですよね。
犬神明の問いかけに、流れるような言の葉で答えるアルカンフェル。
その光と熱に満ちた言葉には驚くような内容も含まれいて、エンタメのみを求める読者には引っかかりを覚える向きも多かろうとは思いますが、個人的には大好物です。
「過去、現在、未来は一点なり」
という真理、ウルの意識にアニキの意識が重なることで、感覚的に把握させてしまうのが凄い。
現在から過去に体験をフィードバックすることも可能であり、ある場所での意識はそのまま多次元宇宙に存在し続ける…。令和に活躍するどんなスピリチュアル・リーダーの言葉より胸落ちするかも。
アルカンフェルが、アニキに向けた以下の預言も、すごく気になります。
長き時を経た超古代の記憶を取り戻し、かつてのレムリア、ムー、アトランティス の時代の歴史を物語る方、多くの預言者たちがその出現を予告している偉大なる方を、そなたはやがて見ることになるでしょう。その時にそなたは失われていた記憶を回復するでしょう。
それまであなたは長き旅を重ねることになります。それは過去、現在、未来をつらぬく、大いなる旅路です。そなたの旅は、かつて地球上に起きたあまたの出来事を明らかにしていくはずです。
前半は『幻魔』シリーズの東丈を指している?
もしくは、ウルフガイ の中に救世主的なキャラクターが登場する予定があった?
そして犬神明の「大いなる旅路」とは、輪廻転生のことだけではない気がする。
この辺りは、『人狼天使』終了後のアニキの運命を示唆しているようにも思えます。
🐺🐺🐺
「アズルのエサウ」を伴って、奇怪な尖塔が屹立するアシラー神殿に侵入するアニキ(カルデヤのウル)。
邪神に生きた人間を供犠する殺人淫楽教であり、前作『白書』で大滝志乃が在籍した〈磁光会〉が、はっきりと此処の別れ身的同根存在だったことが分かります。
囚われの美少年、ラミヤの案内で、果てしない地下通路を下り、行き着いたのは「何十万年も昔の太古の地下殿堂」。そしてその先にはきらびやかな地底都市が広がり…。
もう闇のトラップ満載で、どこまでが現実世界のことなのか分からない😆
肉体的なバトルはなくても、一瞬一瞬が心理的に仕掛けられる陥穽との闘いであり。
肉欲、恐怖、虚栄心と、次々と巧妙に仕掛けられる罠を、アニキはことごとく打ち破って見せる。
神殿の地下に存在する暗黒の祭祀場で、対面することになる魔族の大物たち。5名それぞれが口にする懐柔と脅しの言葉が怖い怖い…。
かつてアニキの妻だったという、アステリア姐さんの他にも、みんな浅からぬ縁がありそうで、特にアシラーの本体でもあった美少年ラミアは、現実世界でも関わってきそうな雰囲気です。
襲いかかる獣面の衛士は犬人であり、狼人間としての意識を発現させて、難なく退ける。
ここでラミアが明かした「半獣半人は科学技術で自分が創造した」という事実もめっちゃ深み! 中でも狼人間は最高傑作だったと!
この辺りは獣人ばかりが存在していた『真幻魔』の破滅世界篇にも繋がってきそうですが、一旦置きます。
この魔的世界での攻防は、“何者か”の顕現である「白銀の光」の降臨によって、けりがつくことになりますが、それもどのような魔族の陥穽にも屈せず、自らの熱き信念を宣言して見せたアニキの強さがもたらしたものであり、ここは紛れもない「アニキの勝利!」ですね。
きっと、「白銀の人」くらいになると、あまり直接介入はできなくって、ああいう形でしか力を表せないんでしょう。
アシラーとしての邪悪さを剥き出しにしたラミアが吐く壮絶な呪いの言葉に、はっきり「ナザレの人」を指すと思われる部分があるのが印象的でした。もしかすると、犬神明とジーザスには、深淵かつ直接的な関係があるのかも?
クライマックスは『鬼滅』でいうと「上弦の鬼集結!」みたいな感じでしたが、何人かは現実世界でも転生していて、アニキに敵対してきそうな予感。
うう、本編はあと二作で終わってしまうの知ってるんで悲しい😭
過去にフィードバックしてひらりんに続編書いていただきたい!