『狼は泣かず』 | 平井部

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『狼は泣かず』 

 

 

ノン・ノベル版、アダルトウルフガイ 第五巻に収録された2篇目。

 

先述のように、この直前に名作『人狼戦線』がありまして、今作以降が「アダルト・ウルフガイ 第二部」だと言って良いと思います。

 

闘うべき巨悪の姿が、次第に明らかになってきます。

 

 

 

 

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極左集団、さらにはイタリアン・マフィアとの壮絶な死闘を潜り抜け、しばし平穏な日々を送っていた犬神明を、闘争の新たなフェーズと導いたのは、大滝雷太という青年でした。

 

身長190センチを超す偉丈夫で、ハンサムであり磁力のように女性を惹きつける魅力を放ち、そして、特異的な身体能力と不死性を有している。

 

 

最初に出逢った瞬間から、アニキと雷太は引かれ合い、言葉では説明できないような奇妙かつ暖かな友情を築いてゆくのですが、きっとそれは不死身人種の血が要因だったのだと後でわかります。(長野県出身の雷太は、人狼ではなく、他の種族だった可能性もありますね)

 

 

雷太と出逢った夜、郷子さまのサンダーバード車中においての会話はとても印象的で、アニキも郷子さまも、雷太との出逢いは運命的なものであり、この先に避けられぬ凶運が待ち構えていることを、潜在意識では悟っているようなふしがあります。

 

郷子さまがさりげに「気をつけたほうがいいわよ」と注意したのは、様々な意味合いを込めたものだと思います。

 

 

 

ちょと余談にはなりますが、この頃の郷子さまは既に政財界の大物たちに多大なる影響力を及ぼせるほどの存在になっているようで、前作『戦線』で命を狙われたマフィア他いくつかの組織も、彼女の意向で手を引いたのだと仄めかされます。

 

そして、「もう男の人とは寝ないことに決めた」「セックスに興味がない」と…。

 

日本中の妄想男子にとっては、残念な発言には違いないのですが、70年代初期の段階で「セックスは祭祀の儀式」であると看破していた平井和正って、やっぱり凄いですよね。

 

 

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ジャパン・プロレスという曰く付きの団体に入団し、レスラーとしての道を歩み始める大滝雷太。

 

しかし、身体的能力に溢れ、ハンサムで女性にもモテ、肥大漢の田中代表からも寵愛を受ける雷太は、先輩レスラーのやっかみを買い、地獄のようなしごきを受ける。

 

 

純朴で大人しい雷太ですが、身裡に恐ろしく危険な物を秘めていて、ある些細ないざこざをきっかけに暴発し、先輩レスラー五人を半殺しにし、暴力抑制が外れてしまった彼はにわかに粗暴化し、ついにジャパン・プロレスを営業停止に追い込んでしまう。

 

 

いつも照れたような微笑みを浮かべている雷太の内面はとても複雑で、優しさ、劣等感、鬱屈した怒り、などが絡み合っていたようですが、根っ子にあったのは犬神明アニキに対する奇妙な友情でした。

 

冷たい人間社会でずっと孤独を抱えて生きてきて、やっと見出した信頼できる“同胞”。

 

でも、友情は感じつつも結局真に心を開くことはなくて、近親憎悪にも似た、本当に複雑な思いを抱えていたのかもしれません。

 

 

きっと、どれもこれもが避けられない運命であり、雷太にとってアニキは、心を許せる歳上の友人であると同時に、凶運を告げる不吉な使者でもあったんでしょう。

 

 

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ナイトクラブの用心棒に収まっていた雷太は、つまらない痴情のもつれでフィリピン人青年に銃撃されてしまう。

 

心臓に二発、腹部に一発の銃弾を受け、常人なら即死間違いなしの重傷を負った雷太は、あっさりと生き延びてしまう。

 

 

この辺りの感想としては、雷太のモテ度パネェ❗️ ってとこですかね😂  イメージとしては、鈴木亮平さんをもうちょっといかつくした感じでしょうか。

 

わし自身、照れ笑いを浮かべてるとこは雷太に近いと思うんだけど、一体何が違うんだろう…。アニキはアニキで、安西鮎子や滝田洋子にすげーハードボイルドな接し方するし、ほんますげー勉強になります。

 

 

 

 

そして、ナイトクラブの名称が“ムーンライト”ってとこも、ヒライスト大喜びポイントですね。

 

たぶん『真幻魔』世界とは別宇宙なので、ご本人がいらっしゃることはないんでしょうが、月影さんの件含めて、なんとなく繋がりが感じられるネーミングでした。

 

 

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明らかな不死性を示してしまったことから、大学病院の教授から情報が流出し、雷太の身柄は「老人医学研究所」という怪しげな団体が有する施設に囚われてしまう。

 

メトセラ・プロジェクト

 

ほんの一部のエリートの為に、「不死」を研究し、現実化させんとするプロジェクト。

 

おそらく広範囲の医療機関に情報網は張られていて、役に立ちそうな“検体”はどんどん集められていたんでしょう。

 

「犬神明」に関する詳細な情報も既に得ていたようで、もしかしたら他に囚われてしまった「別の不死身人種」がいたのかもしれないし、雷太のような「セミ不死」人間も研究の対象だった。

 

 

最新設備を備えた伊豆の研究所で、精神制御を受けた”人間蟻”たちが、エリート達のために黙々と働いている様子、かなり怖い…。

 

 

罠に嵌り、完全な無刺激状態での精神制御、洗脳にかけられようとしたアニキが、九字の手印を結んで念力を集中し、満月のエナジーと繋がって危機を脱するシーン、めちゃかっけかった!

 

この辺りは、東丈先生や、実はアニキのガイドらしい月影さんのフォースとのリンクも感じられて、嬉しかったです。

 

 

全身を無残に切り刻まれた「かつて雷太だった」怪物を、渾身の力を渾めた足蹴りで眠らせる…。

 

 

激烈な怒りと、悲しみと、復讐の誓いを渾めたアニキの咆哮…😭

 

 

新たな闘いの幕開けです。

 

 

不死身人種の末裔だったかもしれない大滝雷太。

 

おそらくかなりの苦難を味わってきていると思われ、彼に関しての物語ももっと読んでみたかったですね。もっとアニキと交流する時間があれば、特異な身体能力を活かす方法が見つかったかも知れないし、凶悪ヴィランに対して共闘するとか、アベンジャーズ的活闇も見てみたかった😁

 

 

 

 

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この作品にはプロトタイプがあって、なんと8マンの『サイボーグPV1号』という短編です。

 

大滝雷太という気のいい大男が、レスラーになって、大怪我を生き延びて、怪しい団体に囚われてサイボーグに改造される…という、大筋は今作とほぼ同様です。

 

作家の潜在意識の凄さ…

 

心ならずも、怪物と化した雷太を倒さざるを得なかった、8マンの哀しみの後ろ姿が、咆哮する犬神明の姿にぴったり重なります。

 

 

ストーリーには直接関連しないのですが、今作において、「おたかさんの亡骸を自分の手で葬って、墓碑を刻んだ」という記述がありました。

 

あの時のアニキ、重傷を負って生命の危機だったはずなのに😭、崖の下まで降りて、広大な大自然の中から亡骸を探し当てたってことですよね。

 

 

狼の愛の深さが感じられるエピソードで、最後に特筆しておきます😭