今日はもう一度、映画館で『男はつらいよ50 お帰り寅さん』を観てきました。
※ネタバレあります
このキネマ旬報、インタビュー集がめちゃ充実してます💖
初めて知った情報も多かったです。
初回は思い入れが強すぎて冷静に観れなかったんですが、今回は時折泣かされつつ、改めて気づけたこともたくさんあって。
過去の名シーンを挿入するという手法は、「それありき」で企画が進んでいったみたいですね。
個人的には、現在のくるまやファミリーがどんな人生を送っているのか、そして寅さんはどうしていて、どうファミリーに絡んでくるのががすごく気になって、そこを観たかったんですけれど、この映画は「そういうことではない」んですね。
よく、過去のある出来事がふと思い出されて、当時そのままの感情が蘇って、心がノスタルジックに染まってしまうことがありますけれど、この映画は、ちょっとSFチックに言うと、柴又の街全体に、寅さんが起こしてきて今なお存在する「渦」がリンクした瞬間を、映画として見せてもらえたのかなと思います。
くるまやファミリーそれぞれの胸に蘇る、懐かしい寅さんの面影。
現在のストーリーとしては、満男と泉ちゃんの再会と、再燃する恋愛模様が描かれます。
不思議な予感から、本当に泉ちゃんと再会してしまい、まだ消え去っていない恋心に悩む満男。
ああ、こういう、うじうじするの、満男やわ〜
三浦半島へ向かう車中、かつての自分の厚意と恋心を「迷惑だっただろ?」なんて言う満男に、「そんなことない!」って否定しながら、運転する満男の手に自分の手を合わせる泉ちゃんが、あんまり綺麗で泣けます
すっかり年をとったのに、瞳の純粋さは昔のままな二人の佇まいは、お互いから溢れるような愛を感じるのに、どこかすれ違ってて、切なくって、あんな大恋愛を経たのに結局結ばれなかったことが、なんとなく理解できます。
そして、そんな満男を励ますように、時折ふっと現れる、寅さんの幻影…
吉岡秀隆さんと倍賞千恵子さんがインタビューでおっしゃってたんですけれど、撮影現場でふっと渥美清さんの気配を感じることがあったらしいんですね。
今回の吉岡さんの演技は本当に素晴らしいんですけれど、満男としても役者吉岡秀隆としても、二重に見守られてあの表情が生まれたんでしょうね。
「寅さんが今どうしてるのか」については、うまくぼかされてはっきりとは示されないです。さくらさんは、「いつお兄ちゃんが帰ってきても良いように」部屋を空けて待ってるし、満男も事あるごとに心の中で語りかけてる。
今作、「なにか分からないけど泣けた」って言う人が多かったみたいで、ぼくもまあそんな一人なんですけれど、今までなんども「男はつらいよ」を観て楽しんできた記憶が、自分もどこかで寅さんと会えたらなあ…なんて夢想した記憶が、喚起されて胸の奥から湧き上がってくるんです。
寅さん映画って映像もすごく綺麗で、古き良き昭和の情景が、無数に散りばめられているんですけれど、それをフィルムから見た記憶が、自分自身の記憶と相まって、幸福の粒子として胸の奥にしっかり保存されてる。それがフラッシュバックのように挿入される寅さんの愛すべき表情によって、プチプチ弾けて浮き上がってくる。
「あなたもだよ」って、言ってもらえてるんですね。
「あなたも、寅さんと笑顔で語り合った、まぎれもないファミリーの一員なんだよ」って。
エンディング、寅さんを主人公にした小説を書き下ろすことを決心した満男が、静かに流す涙。それに重なる、麗しきマドンナ達の面影…。
これもSFチックになりますが、あの瞬間、恋人とのつらい別れを経たばかりの満男に、失恋はお手の物な寅さんの優しい心根が、リンクしたんだと思うんです。幸福感とともに、泉ちゃんとの、そして伯父さんとの別離の悲しさが綯い交ぜになった満男くんの表情、泣けます
(キネマ旬報のインタビューでは、吉岡秀隆さんがこのシーンのご自身の解釈を述べられてます。必読っす。)
20数年を経て届けられたこの第50作。
その時間経過も含めて、ファンにとっては最高のプレゼントでした
「お帰り、寅さん!!」
※ 余談になりますが、ヒライスト的には、後藤久美子さんの23年ぶりの演技が見られたのが嬉しかったです。あの奇跡的な美しさは、「女神の復活」を確かに予感させました。