短編集『悪徳学園』感想の続き
『星新一の内的宇宙』
レジェンドSF作家たちが多数登場するショートショート。時代の雰囲気が感じられて楽しいです。『平井和正の内的宇宙』って誰か書いて下さらないかしら? めちゃロマンチックになりそうですよね。
『転生』
学習誌に掲載された『仮面の逃走』を、後に加筆しSFマガジンにて『転生』として発表。
こちらも宇宙から目的を持って飛来した不定形生命体が重要なキャラクターとして登場し、『死霊狩り』のアザーストーリーとしても読めます。
大事故から奇跡的に生還した由紀の周囲で、頻発する不穏な出来事。ある悲劇をきっかけに、警察から追われる身となり……。
異種生命体同士の恋愛が、悲しい形で成就するエンディングは、切なくも美しいです。
ヒロインの内藤由紀は著者のお気に入りのようで、杉岡由紀としてこの後のいくつかの作品にも登場するのですが、今回改めてその可憐さに感動。最近胸撃ち抜かれ気味の武田玲奈さんとか主演でぜひ映像化していただきたい!
『エスパーお蘭』
これ、面白すぎます(^_^)。
もうエンターテイメント性グンバツな感じで。
ビルを思念だけで爆破してしまう“念爆者”を追う、謎の存在ショウ・ボールドウィンとお蘭。そこにサイコな犯罪者であるタイガー・コウがからんできて、事態は急展開を見せ……
ちょっとこれすいません、5000枚くらいの長編に、リライトお願い致します!!
以前どこかで喜び語りした記憶があるのですが、お蘭のフルメームが「オラン・アズマ」、つまり、東丈と(真幻魔に登場する)風間のお蘭さまを合わせた名前なんですよね。 このお蘭と、お蘭さまは違うキャラクターのようではありますが、もしかしたら東丈の子孫なのかなあとか、妄想は尽きず。
超能力の描写に関しては、平井和正はもう頭抜けていますね。
すごく実感的で、例えば受容型のテレパシストであるお蘭が秘める弱点、他人の強烈な害意に触れる危険性とか、身体の接触によって影響下に置かれやすかったりだとか、リアリティありありで。
終幕近く、逃走劇の決着シーンも、お蘭の超感覚を通しての描写がなされていて、ちょっと他ではない読書経験が得られます。
最後まではっきりとは明かされない、ショウ・ボールドウィンとそのバックの組織に関してですが、『サイボーグ・ブルース』の世界との関連も伺えますね。次に読むので、その辺りまた追求してみます!
『親殺し』
子供世代が一斉に“覚醒”し、親世代を殲滅させるという、深刻なテーマを孕んだ一品。
「宇宙塵」に発表された『クレージーエイジ』という作品が原型にありまして、これが1962年ですから、作家活動の最初期に描かれているんですね。
主人公の“人類最後の男”は、「妻を殺した自分の息子」に復讐を遂げる為だけに、生を繋いでいるのですが、最後の最後に回心が起って、銃を投げ捨ててしまう……。人類の業を静かに見詰めて、自らの生命を差し出す……という姿勢は、『殺人地帯』の主人公とはっきり同じでありまして。
平井節満開の、重く、読み応えのある作品です。
子供達が「鬼」と化す描写は、『新幻魔』冒頭でも見られますが、その反対の位相を持って現れたのが「クリスタル・チャイルド」なのかも知れません。
逆に一斉に子供たちが天使化しちゃっても、現世を変えることはできそうにないですものね。
リム出版全集版のあとがきインタビューにて著者は、「SFに出会った時に、人類をまるごととらえようとして書き始めた」と話しているのですが、こうやって初期作品を読み返してみると、その熱い意志がじんじん伝わってきます。
「人類ダメ小説」といわれる初期の名作群が、人類に対する悲嘆や絶望を描く為ではなく、むしろ希望を見出す為の模索に他ならなかったんだということが、この『親殺し』という短編によく象徴されていると思います。