思えば昨日の夜からちょっとおかしなところはあった


寝つき悪いなぁとかふわふわするなぁとか。


ただ、その時点で次の日こうも悪くなるなんて思わないじゃないか。



ただ今藤吉、ベッドの中から起き上がれません。


起床予定時刻はとっくに過ぎており、あと15分もしないうちに迎えの車両が来るというのにも関わらず、だ。


夏鈴 「ダメだ…起きんと」


予定が詰まってない時はさすがにスタッフさんに連絡をして休ませてもらうのだが、今日はいっぱいいっぱいだ。


午前中は以前時間が押して取れなかった分のドラマの撮影、午後は1週間後に控えるツアーのリハ


どっちも「すみません休みます」で済まされる予定じゃないことは自分が1番わかっている。


ただ、今日1日のスケジュールを想定するだけで気が狂いそうになる。


そんなことを考えている間にも時間は進んでいく


焦ってるはずなのになぜか起き上がれず、結局家を出る6分前に渋々起き、必要なものだけをガサッと持ち、玄関にたまたまあったトートバッグに入れ足早に家を出た。



午前中のドラマ撮影はとにかくこの状況を隠すのに必死だった。


グループのお仕事とは違い周りは知らない人だらけなので頼る人がいない


だから休憩となればすぐに人目のつかないところに行ってうずくまり、それがバレないように時間になる10分前にはもうセットに移動した。


これがまだ午前だけだったから良かったけど、夜通しの撮影だったらどうなっていたんだろうって思う。


さすがにその時は痺れを切らしてすみませんと言うのだろうか。


無心になって撮影をしていると、もう気がついたら車両の中に戻ってきていた。



「ちゃんとやれたっけ...」


こんなに手応えがないのは初めてで、いつもは出ない独り言が勝手に出てくる



マネージャー 「夏鈴、お弁当貰ってきた?」


夏鈴 「あ、いや、貰ってきませんでした」


マネージャー 「え?なんで?」


夏鈴 「お腹空いてないからいいかなって」


マネージャー 「ダメでしょ」

                   「夜までリハあるんだから食べなよ」


夏鈴 「…いや、ほんとに昨日食べすぎて、胃もたれが、」


マネージャー 「そうなの?」

                   「それでも何か食べないとでしょ?」

                   「私の食べなよ」


夏鈴 「ほんとに大丈夫です」

       「行ったらなんかあるだろうし」


マネージャー 「ならいいけど」



そんな、今食べたら吐くに決まってる...


死ぬ気で撮影して危うくお昼まで強制されるところだった



マネージャー 「ね、ずっと言おうと思ってたんだけどさ、なんか今日大丈夫?」


夏鈴 「、、え、大丈夫ですよ?」

       「何急に、笑」


マネージャー 「いや、違うならごめん」

                   「なんか、思っただけ」


夏鈴 「あ、はい。」

       「全然、大丈夫です」



そう。

油断も禁物ということ。




夏鈴 「おはようございます」

       「途中からですが、よろしくお願いします」



お昼からみんなと合流してリハーサル


やり始めるとアドレナリンが出るのか意外と大丈夫だった


ダンサー 「夏鈴ちゃんそこ2.5に変更できる?」

             「後ろの瞳月ちゃんと被りそう」


夏鈴 「こうですか?」


ダンサー 「うん、オッケーかな」


こんな感じで進んでいく



嫌いじゃないし、むしろ好き


一つの作品を作り上げてるって感じがして、自分の体調のことなんてこの時ばかりはどうでもよかった



やり始めて1時間程で休憩の合図が入る


その途端にぶわぁっと冷や汗が吹き出てきた

それと同時に数メートル離れたところにいた天にロックオンされる


天 「なぁ、今日はなんのシーンやったん?」


夏鈴 「何って、いつもと同じだよ」


天「なんか最近の夏鈴すごい可愛く見えんねん」

    「そういう役柄してるからかな」


夏鈴 「あぁ、ありがと、?」


天 「ひかると話してたんよねー」

    「な、ひかる」


ひかる 「うん」

          「最近夏鈴いつもに増して可愛い」


夏鈴 「やめて、照れるし」


天 「なんだよ〜顔赤くしちゃってぇ〜


夏鈴 「赤くないし」



褒められるのは、まぁ嬉しい。


しかも、「かわいい」と。



ただ、今の私には「褒め」よりも「1人でいられる休憩時間」が欲しい


いつもならふらっとどこかに行くのだが、話の中心にいてしまっていることで逃げ出そうにも逃げ出せない



天 「おーい、夏鈴」


夏鈴 「.......あ、うん」


天 「大丈夫?疲れてる?」


夏鈴 「あー、まぁ。

       「いや、大丈夫」


天 「なんや、曖昧やな」


ひかる 「天ちゃん、夏鈴そっとしといてあげて笑」


天 「はぁ、はーい」



この時ばかりはひかるにとてつもなく感謝した



会話から抜け出した私は1人で部屋を出た


いつものようにふらふらと彷徨い、人気のない廊下まで行き、床が掃除されているかも分からないが座り込んだ



学生時代は喉が痛かったりだるかったりすると、熱が出たかもしれない、と少しだけ嬉しくなっていた記憶がある


学校も休めるし、熱が出るなんてむしろラッキーだなって


でも大人になってからこう都合の悪い時に出る熱がほんとに嫌いで、「熱が出ている」と実感するのも嫌で、体温計なんて使ったことがない


今は学生時代好きだった「喉が痛いな、だるいな」という感覚を催す度に自分でも焦るのか心臓がギュッとなり、喉元まで胃液が上がってきてしまう


「気持ち悪い、だるい、きつい、寝たい、帰りたい、」


願望が声になってどんどん出てくる


スマホを確認するともう再開の時間


「戻らんと…」


一瞬なんでこんなことしてるんだっけ、と分からなくなった


その思考が頭全体に回る前にまたあのアドレナリンを出さなければならないのだ。













長くなる (定期)



もっとスパッと書きたいんだけどなぁ

上手くいかん












では











ラスカル