2014年のコンサートDVDの{恋の手本}歌唱時に「曽根崎心中」のビデオが少し流れました。徳兵衛をちょっと情けない感じで演じられていて、それがとても魅力的で興味がわきました。

見て分かったことですが、演出家も共演者(山本陽子さんにはびっくり)も劇場も超一流でした。


さて、前置きが長くなりますが、以前、蜷川さんの初期の作品で、この曽根崎心中を、平幹二郎さんと太地喜和子さんで、見たことがあります。道行の場面では、森進一さんの曲がかかっていました。

最後、雪がたくさん降っていたな、という印象と太地さん綺麗だったなという感じでしょうか。

その他にも恋模様があり、市原悦子さんが、18歳の娘に扮され(当時40歳はこえておられたか?)その見事な演技の印象の方が強いです。

歌舞伎でも、見たことがありますが、女に男が引っ張られるといった印象はありません。

平幹二郎さんの徳兵衛は、そんなにひ弱な感じはうけなかったので、近松門左衛門の曽根崎心中を調べると、まさに山内惠介さんの表現そのものでした。

平幹二郎さんは、凄い俳優さんで蜷川舞台にはかかせなく、「リア王」は演出と相まって圧巻でした。

しかし、近松が表現したかったのは、大坂の市井の人々、情けない男や気の強い女もありだったのではないでしょうか?

それをふまえると、惠介さんの演技は近松門左衛門の世界を見事に表現していたのではないかと思います。

さて、見終わった感想は、美しいという言葉しか思い当りません。

歩き方、手の表情、顔つき、すべてがはかない美しさと気品にあふれていました。

そして、気の弱いなさけない男の表現も魅力的。

100%主人公になりきると、それは嘘になり品がなくなりますが、惠介さんの場合、場面に応じて、その配分をかえているようでした。山内惠介の素の部分を混ぜ込むのです。

なので、本人に凛とした気品がないと成り立たないのですが、惠介さんは見事でした。

そして、最後の道行きで、お初を小刀で刺し殺し、その小刀を自分の首筋に当て切り付けるとき、その時は100%徳兵衛になっていました。この表情は圧巻でした。


ふと思うことは、山内惠介さんは男玉三郎(歌舞伎の坂東玉三郎さん)ではないかと。

数年前、海老蔵さんの凱旋公演が京都南座であったとき、玉三郎さんは出雲の阿国に扮して、花道から二階を見上げられたその表情や仕草が今も忘れられません。

その凛とした美しさ、それが山内惠介さんにも感じられました。

お初を玉三郎さんが山内惠介さんが徳兵衛を演じられたら、この世のものではないような・・・。