米大統領選挙が熱を帯びてきた。先日のアイオワに次いで、9日にはニューハンプシャ―で2回目の予備選挙が開かれる。民主・共和ともにデッドヒートが続く。
日本のマスコミでは、トランプ氏が勝つかどうかに関心が集まるが、僕の考えは違う。トランプ氏の動静など些末なことで、世界の思想史的にはもっと重要なことが起こり始めたと思っている。それは、この大統領予備選候補者の登場に端的に表れている。
まず、民主党のサンダース氏。予備選に出馬する時点でわずか3%の支持しかなかったが、アイオワ予備選ではクリントン氏と0.2ポイントの僅差まで迫り世界を驚かせた。ニューハンプシャーは、彼の地元バーモントに隣接するから、ここにきてクリントン氏を逆転する可能性も生じてきた。
サンダース氏とはいったいどういう人物なのか。
もともとはユダヤ系ポーランド人で米国へ移民、もともとは民主党員ではなく根っからの社会主義者。「全米公立学校の月謝を税金で賄え」という極端な社会主義で、こんな極端な男は民主党内で1人も支持者がいなかった。しかし、西部、南部をはじめとする貧困層の熱い支持を集めて支持が広がってきた。背景には、高額者に対する税優遇制度とマネービジネス大繁栄による富裕者の増加がある。
米国の健全さは、中西部の穀倉地帯に生活する善良な中間層にある。ミドルクラスといわれる精神的健全な米国市民の公平感覚、自由闊達な活動許容性は、世界でもまれな素晴らしい人間性を育て上げてきた。これが米国型民主主義の原点だったが、それをリーマンショックと投資技術の高度化が打ち壊していった。最近の原油安がさらに追い打ちをかけ、ミドルクラスはみるみる退潮、貧困層が増大し富裕層がとの格差が天文学的に開いていった。
サンダース氏はそこへ狙いをつけた。「米国の退潮は、富裕層の増大とそれを許す共和党の仕業だ」。一挙にマイノリティと貧困層の不満に火がついた。「そうだ金持ちをつぶせ」、民主党幹部でさえ手を焼くような極端な社会主義者的思想が、米国大統領選を動かすかもしれない可能性が生まれてきた。
一方、共和党、トランプ旋風で大騒ぎだが、このトランプ氏、かなり真面目な男だと僕は受け止めている。でなければ、これほどの財をつくりあげることはできないだろう。米国で経済的な成功を収めるには、よほどの人格と見識がなければならない。自由と公平の社会である米国は、実力や腕力ばかりでなく、高い見識や人格、奉仕性と信仰心がなければ成功はおぼつかない。トランプ氏はそれを持ち合わせていると信じている。
では、アイオワでトランプ氏を抑えたクルーズ氏、この男はいったい何者か。出身はキューバ難民である。父親が福音派牧師でバリバリの保守主義者、ハーバード・ロー・スクールを卒業して政治家になった。
この人物も、共和党内部では札付きの困り者である。極端な愛国主義で右翼そのもの。「シリア全土を爆撃して灰にしてしまえ」「イランの核は、完成前に爆撃して破壊しろ。場合によっては核を使用すべきではないのか」。こんな発言をする人物が大統領候補である。クルーズ氏の前ではトランプ氏がすごくまともに見えてしまう。
先日のCNNでクルーズ氏が登場し、マシンガンの銃身にベーコンを手巻きしてマシンガンを連射、熱した銃身から焦げたベーコンをはがして、「マシンガンベーコンさ」とうまそうに食べた姿が目に焼き付いている。この男、全米ライフル協会の幹部でもある。
いま米国は、赤と青で狂信主義者が大統領候補として登場する。シリアに拠点を置くイスラム狂信主義ISとどう違うのか。ドイツではナチ党の台頭が話題となり、フランスでは社会主義者のルペン氏が取り上げられる。ロシアのプーチン氏は一向に大ロシア主義の旗を降ろさず、習近平氏は南シナ海、東シナ海の中国化をやめない。日本の安倍氏は、憲法学者の意見も聞かずに右傾化をひた走る。世界は極点主義者のオンパレードになってきた。
本来、二黒土星は温厚な星である。こうした極端主義には似つかわしくない星だ。それが一転して世界は動く。このままで終わることはないと信ずるが、ともかくこうした動き、注目に値する。