私が書いているパラレルIF作品艶ぼ~いシリーズに登場する乙女系翔太君視点の物語です。艶が~る本編とは設定が違うので、ご注意ください。
勝海舟さんは幕府内部から煙たがられていて幽閉状態にある。佐久間象山さんのもとで一緒に学んだ吉田松陰さんが倒幕の作戦を否定せずに自分を打ち首にしろと意見を曲げずに亡くなったせいでもある。けれど勝さんは寂しそうに笑って「あいつは急ぎ過ぎたんだ。頑固な奴だ。死んだらどうにもならねぇのによ」と呟いていた。
龍馬さんの仕事は身動き出来ない勝さんの為に情報を集めることと、海軍操練所を作る為にお金を集めること、つまりスポンサーを募ることだった。
土佐藩はもともと尊王攘夷派だ。勝さんと龍馬さんは倒幕を目指しているけれど、それは遠回りだ。幕府に恨みがあるわけではなく、日本をひとつの国として外国に対抗できる強さを手に入れ、国土と国民を守ることを理想に掲げてる。諸藩を説得し、幕府も説得し、幕府と藩を同じ立場にする。つまり幕府も朝廷に仕えるひとつの藩に過ぎないのだとして日本をひとつにしようとしている。
けれどそれは身のない理想論だと理解されなかった。怪しまれていた。その思想を方々に語り歩く龍馬さんは攘夷派にとっても佐幕派にとっても敵になる。同じ土佐藩にも龍馬さんの命を狙う人が居るということだ。
壁に背中を預けて片膝を立てながら、刀を肩に置いて盃を手にした男の人が不機嫌に言い返していた。
「幕府は腰抜けだ。異国と戦うつもりがない。倒すしかねぇだろうよ。先生は正しい。俺達は先生の志を継ぐ」
「死んだら元も子もないじゃろうが。なぜおまんらは生き急ぐんじゃ」
「俺はまだ止めてるほうだ。幕府を説得する気ならそちらが急ぐことだな」
「むう」
不敵に笑って盃をクイッと空けるこの人は高杉晋作さんだ。龍馬さんが江戸遊学の時に知り合ったらしい。これは……仲良い? のかな?
行灯の淡いオレンジの光に照らされて鎖骨から胸板はおろか着物の隙間から腰骨までが陰影を作って綺麗に見える。なんであんなに胸をはだけて着物を着るのかな。ちょっと目のやり場に困る。硬そうな胸板だなぁ。触り心地良さそう、ゴツゴツして気持ちいいんだろうな。高杉さんは僕が見惚れている視線に気づいたのか顔をあげた、目が合う。切れ長の目、無骨な頬と太い首。
「なんだ。俺に何か言いたいことでも?」
「あ、いえ」
さすがに胸板を見てましたなんて言えない。
「華奢だが上背があるな。異人の血が混ざってるのか?」
「あ、はい。祖母がドイツ人です」
「ドイツ……どんな国だ?」
「え?」
強面が崩れて笑顔になる。目が輝いている気がする。まるで少年のようにわくわくした面持ち。あ、似てる。僕の父さんに。笑うとそっくりだ。
「ビールとソーセージが美味しいです。日本人に気質が似ています。細かい作業が得意で機械、ええとからくりを作るのが巧いですね、時計とか精巧なんです」
「びーるとは? そうせいじとはなんだ?」
「ビールは麦で作ったお酒で、ソーセージは小腸に肉を詰め込んで燻製したものです」
「ほう。麦の酒、か」
またこの人もか。龍馬さんを初め、勝さんにしろ、いつもお世話になってる宿屋のお登勢さんにしろ、みんなして僕の話をすぐに受け容れるのは何故なんだろう。同じ質の人が集まっているということなのかな。革新的で頭が柔らかいんだ。
「奏音という奴は祖母がイギリス人らしいな」
「奏音くんを知ってるんですか?」
「まだ会ったことはない。小五郎が頭が良くて使える奴だと褒めていた。会ったらイギリスの話も聞いてみたいものだ」
「話を聞く……」
「師の教えだ。広く見聞し世界を知る。幕府にはそれが足りぬ」
「じゃあ教えたらいいんじゃないですかね?」
「なに?」
目を丸くして高杉さんが黙った。龍馬さんがクスクスと笑っている。え? 僕、なにか変なこと言ったのかな?
「……教えたらいい、か。ハッハッハ!」
「勝先生も笑っとった」
「自ら学ばぬことは愚かだと責めてばかりだったな、俺達は」
「そうじゃな」
「そうか。学ばぬのなら教えたらいいのか」
「おう。それをわしたちはやろうとしちょる」
「できるか?」
「一緒にやってくれんか、高杉」
「ふん、まぁいいだろう。ちょうど俺は京に身を隠してるところだからな、暇してるんだ。まずは奏音とやらに会うとしよう」
「会いに行くんですか、奏音くんに?」
「イギリスの話を聞きにな」
ニヤリと笑う高杉さんに僕はにじり寄って膝に手を置いて頭を下げた。
「お願いします。奏音くんを護ってあげてください」
「護る?」
「奏音くんは頭が良くて、心は強いけど、身の護りは弱いんです」
「武術は苦手なのか?」
「はい」
「志を通したいなら強さも必要ぞ。お前も坂本に鍛えてもらうんだな、華奢過ぎる。腕など簡単に折れてしまいそうだぞ」
「はい!」
頷く僕を龍馬さんが、おや? という顔で見ていた。きっと意外だったんだろう、僕が武術を学ぼうとすることが。
敵の多い龍馬さん。宿屋には尾行が居ないか注意してから入るし、一箇所には長く留まらない。龍馬さんが勝さんの門人になるきっかけは勝さんを暗殺しに来たのが龍馬さんだったことだ。龍馬さんは強いから、自分の身は自分で護れる。僕が足手まといにならない為には僕も武術を身に付けるしかない。奏音くんは精神的には男らしいけど身体は女の子だ。だから僕が強くなって奏音くんを護れるようにもなりたい。大事な人を何人も失うのはもう嫌だ。あんな経験二度としたくない。
僕はそんな事を胸に誓っていたんだよ、奏音くん。まさか奏音くんが新撰組道場で剣術稽古することになるなんてこの時は予想もしてなかったな。いったいなんでそんなことになっちゃったの?