船上の攻防 | ロガリズム

ロガリズム

読んだ本の感想と、戯言です。戯れてあげてください。

夜襲を仕掛けてる最中の船上で甲板に立っている奏音を見た瞬間、鳥肌が立つ。あれほど船室から出るなと忠告したのに、ひとつも人の言う事を聞かない。敵船の砲弾が帆軸をかすって人の頭大ほどの木の破片が落ちる、奏音の近くに。
俺は走りよって奏音を抱きかかえて後ろに飛び退いて、甲板に背中から倒れた。
腰をぐっと抱き寄せて話す。

「船室におり、言うたやないか、ほんま危なかっしい。」

「嫌です、自分だけ隠れるなんて。」

と反論する奏音を子どもを抱くように抱き抱えて無理やり船室に運んだ。

「ちょっ、藍屋さん、嫌だって言ってるのに!」

船室の中に下ろし、なおも反論しようとするので、口を手で押さえてもう片方の指で黙れという仕草をする。

「あんさんのことは、ちゃんと認めてる、邪魔になんて思ってへん。」

「でも、」

口を押さえていた手で頭を優しく撫でる。

「頼りにしてるのはこの頭の中身や。誰も替わりは居ぃひん。腕っぷしは他の人らに任しとき。」

「うう、」

「みんな、そう思っとる。だから、ここに居なはれ、ええな?」

歯を食いしばり悔しそうな顔をする。ほんにあんさんはそういうとこ少年やな。

「ええな?」

「……はい。」

不服顔で頷く奏音に苦笑した。

「しかし、長いな、持つやろうか。」

渦周辺にはもう誘導済みだ。小舟はだいぶ前に出している。

船上は砲弾を何発も撃ち込まれてボロボロだ。他の船も同じだろう。このまま外国船が沈まなかったら、全滅だ。

奏音がガクガクと震えている。自分の作戦が巧く行かなくて仲間を死なせるのが怖いとでも思っているんだろう。

「心配せんでええ。」

背中をさすってふわりと抱きしめる。髪をすきながら何度も頭のうえに口付ける。

「わては、いつ死んでもええ思うとった。けどあんさんに会うたら死にとうなくなった。ずっと傍にいたい。それでもあんさんの為なら死ねる。誰もあんさんを恨んだりせえへんよ。」

「俺は、誰も、死なせたくないんです、」

「知っとる。けどわてらはな、夢の中に居るんよ。外国船と互角に戦い、勝とうとする作戦なんて、誰も言いださなかったし、出来るなんて思ってなかったんや。けどわてらは今、勝つ為に戦ってるやろう、信じられへん、こんな未来があるなんて、思ってなかった。みんなあんさんに感謝しとる。この船の上で全員が誇りを持って戦っとる。信じるんや、みんな仲間やろ?」

ポタポタと奏音が涙を落とす。頬に口付けて涙を拭い、唇を柔らかくかするようについばむ。

「うおぉぉぉ!」

外で叫び声が聞こえると、それを合図にしたかのように一斉に皆が騒ぎだした。

「沈む! 沈んでるぞ!」

「よし、よし、よ~し!」

「やった! やった!」

「我々の勝ちだっ!」

奏音と顔を見合わせる。2人の顔に笑顔が広がって健闘を讃えて強く抱き合った。

「良かった。本当に良かった。」

大粒の涙を流す奏音の頬を手のひらで包んで、首筋に唇を這わす。

「あ、の、藍屋さん、」

「うん?」

「あの、船沈んだから、次の作戦決行に行かないと、なんです。」

腰を抱えて船室のべっどの上に押し倒し舌を差し入れて口中をくすぐる。

「もうっ! 俺の話聞いてます?」

「あんさんの言葉は一字一句覚えて反芻しとる。」

「反芻?」

「どこ触られても嬉しいですけど、とか?」

ニヤリと笑うとみるみる奏音の顔が赤くなっていく。

「船、沈みだしても、時間かかるんやろ?」

「それはそうですけど、でも皆が、」

「不謹慎だと誰になじられてもあんさんを抱きたい。」

「ふぅっ、そこ、ゃだ、ダメ、藍屋さ、んっ」

「秋斉、や。」

「え?」

「名前で呼んでくれるんやったら止めます。」

「……」

「そんなに呼びたくないんか、本当は止めてほしくないんかどっち?」

「うう、」

「どっち?」

「意地悪、」

「意地悪されんの好きなくせに。」

奏音がギュッと首に抱きついて耳元に囁く。

「秋斉さん、お願い、骨抜きにしないで。」

「骨抜き?」

「今だって、俺、秋斉さんに見つめられると、見惚れて、秋斉さんのことしか考えられなくなって、ずっと抱きしめててほしい、って思っちゃうのに。抱かれたら、もっとそうなります、戦えなくなっちゃう。しなきゃいけないこと、まだたくさんあるんです、だから、手加減してください。」

奏音、阿呆か? 押し倒している女に、目元を真っ赤にさせ、涙で瞳を濡らしながら、そんな可愛いことを言われて、我慢してくれ、と言われて我慢出来る男が居ると思ってるのか?

「あんさんのほうが意地悪いやんか。」

「え?」

「なんでもあらしまへん。」

あらゆる神経を総動員して、いきり立つ自身を押さえつけ、奏音を抱き起こして微笑む。

「行っといで。」

「はい!」

奏音は以前もそうしたように赤くなった顔をパシパシと叩き少年の顔に戻す。が、何かを思いついたようにニマリとイタズラっぽく笑うと。

不意打ちで俺に口付けて言った。

「居候なのに、すごく帰ってきてほしい、って思われてるんですね、俺。」

照れで顔が赤くなる。それを見て奏音が満足気に語る。

「そういや前に古高さんに言ってましたもんね、俺が帰ってくるのは秋斉さんのもとに、だって。」

「よう覚えてはる。」

「行ってきます。帰ってくるのは、秋斉さんの傍です。」

「あんまし可愛いこと言うてると、気ぃ変わって押し倒すよ?」

「作戦終わって、京都に戻る船の中なら、そうして欲しいです、いつでも。」

にっこりと微笑み立ち去る奏音。

あかん。

そんなん言われたら楽しみすぎて毎晩寝られへん。