白煙の湯気の中に立つ女の子。白い肌、くびれた腰、丸くて形のいい乳房。
綺麗な身体だなぁ、と思う。その少女は、ついさっきまで少年だと信じていた奏音くんの顔をしている。
奏音はしばらくきょとんとしていたけれど、やがて、口を開いた。
「こっち来て座ってください。お背中お流ししますよ、将軍様。」
え、えぇ?
なに、その余裕? あれ、俺の目の錯覚? 女の子の身体に見えるんだけど、やっぱり少年なのか?
「どうしても俺を将軍にしたいんだね。」
「なってもらいますよ、っていうか、俺がさせます、必ず。」
そう言って笑って、俺の肩を掴んで座らせると、背中を洗い出す、素手で。
細い指先が肌に直接触れて、股間が膨らみかけるのを懸命に堪えた。
「あ、あのさ、奏音くん、なんで手で直接洗うのかな?」
「磨き石だと余計な皮脂まで剥がれて肌に悪いんですよ。」
いや、肌に悪くてもいいよ、素手で洗われると、心臓に悪いよ。
もしかして、奏音の生まれ故郷では、こういうのが普通、なのかな?
それとも、冗談だと思っていた妖しというのは本当で実は性別というものが無いのかもしれない。女体に見えるけど、女体しか居ない妖しなのかもしれない。
じゃないと、こんなに落ち着いてられないだろう。だったら俺が変に意識したら奏音にとって迷惑なんじゃないのか?
そうやって必至に自分と自分の下半身を落ち着けていた束の間
「前も洗っていいですか?」
奏音が腰骨に指を滑らせて聞くから、
「そっ、それは自分で洗うから、いいです!」
焦って断り、振り返って奏音の肩を掴んで距離を取った。そんなことされたら絶対に我慢出来ない。
「背中、俺も洗ってあげるよ。」
後ろを向いてほしくて、そう言った。何言ってんの俺、そんなことして大丈夫? とは思うものの奏音が意識してないなら乗り切るしかない。そう思って口にした言葉。
「えっ?」
奏音が驚いて目元を赤くして俯いた。
あれ?
「あ、の……慶喜さんが俺を洗うのは、変、じゃないですか?」
「へっ?」
なんかおかしい。お互いにものすごい誤解をしてる予感がある。
「あの、俺は、奏音くんの国では、一緒にお風呂に入るのも洗い合うのも普通のことなのかな、と思ったんだけど、もしかして、違う?」
「俺は、慶喜さんは将軍になる家系の生まれだから、女中に入浴を手伝わせるのが普通なのかな、と思ってたんですが、」
「そんなことしないよ!」
「そ、そうですか、じゃあ、俺の誤解でした。あの、だから、本当はめちゃくちゃ恥ずかいしいんです、今。恥ずかしがるのが慶喜さんの気を悪くさせたら困るなぁと思って顔に出さないようにしてただけで。」
俯き、恥ずかしそうに身体をくねらせて、それでも怯えているわけではない様子に目眩がした。
「かわいい。」
「え?」
脇の下に手を滑らせて背中を引き寄せると泡とお湯でぬるぬるとして奏音の身体が簡単に密着する。
華奢でふにゃっとした柔肌に股間が膨らんだ。止まらない。
「奏音くん、かわいい。」
「かわいいって、なに言って、俺なんて、色気もなんにも無いですよ?」
額をコツンとあてて瞳を覗く。腰を振ってヌリュヌリュと股間を擦りつけた。
「んぁっ、や、けぇき、さん、」
「なんで、嫌がらないの? 俺の部下、だから? 奏音くん、よく言うよね、ついてく、とか尊敬してる、とかさ。」
俺は、そんなの欲しくないんだ。
同じ目線でいて欲しい。
「かわいいからです。」
「え?」
「俺より慶喜さんのほうがずっとかわいい。揶揄っても、あんなにムキになって返してくる大人の男の人あんま居ませんよね。」
クスクスと笑う奏音。あれ、同じ目線じゃなくて、俺、下に見られてる? もしかして。
身体を離して、ザブリと湯船に入る。
「今のうちに、先にあがってて。お願いだから。」
「怒っちゃいましたか?」
「怒ってない。」
「怒ってるじゃないですか。」
「頭冷やさせて。このままだと止まらなくて、奏音くんを傷つけちゃうのが嫌なんだ、頼むよ、その、大事なんだ、男とか女の子だったとか、そんなの判る前からずっと、一人の人間として、大事なんだ、お前のことが。」
「……わかりました、殿。」
ニヤリと少年の顔で笑って奏音が出ていく。絶対、下に見られてる。
「でも、俺、慶喜さんには十分過ぎるほど大事にされてるの身にしみてますし、慶喜さんになら何されても傷つかないですよ? 襲われても嬉しいだけです、抵抗なんてする気もなかったですよ、あと、」
恥ずかしくてこのまま湯船に頭まで浸かりたい気分になった。けれど続きが聞きたいから、そうしない。
「風呂入ってたら、頭冷やすの無理じゃないですか?」
なのに揚げ足を取るだけの言葉に聞かなきゃよかったと思った。
「ほんと、奏音くんて意地悪い!」
「ははっ、すみません、」
クスクスと笑いながら出ていく奏音を見送って、ブクブクと泡を吹かせながら俺は湯船に潜った。