「慶喜さんは幕府側じゃないんですか?」
驚いた顔で、そう尋ねる奏音を不思議に思う。
昨日までは、たぶんもう少し異人の振りをしようとしていたはずだ。それをすっかり止めている。
話しながら、自分の無謀さに呆れてもいた。秋斉の言う通り、これは無謀な賭けかもしれない。
この少年はこちらの言うことの殆どを説明無しに理解する。佐幕派、反幕派、中道、政治用語や宗教用語、仏閣用語、慣用句まで理解している節がある、と秋斉も言っていた。
異人ではない、絶対に。それが秋斉の意見。
が、しかし、
こんな日本人が居るかい? 秋斉。
密偵だと仮定すると、不自然な点が多過ぎる。ひとまず泳がせて利用できるなら利用しようと、俺も秋斉も一致した大きな理由はそこにある。
疑わしきを隠そうとしないのだ。むしろ開き直ってる。
そして俺の仕事を引受けようとしている。密偵ならば疑われた時点で姿を消すか自害するか、刺客が現れて処分に来るはずだが、そんな気配もない。
何が狙いだ? 何者なんだ?
そう、思いながら。
「俺はこの国が良くなればどっちだって構わないんだよね、政治をするのが幕府じゃなきゃならない理由なんて無いと思ってる。」
言ってから、ハッとなる。
何を話してるんだ、俺は。疑いを持っていて、利用して、都合が悪くなったら捨てるつもりの奴に、何をさらっと本音を話してるんだ?
チラリと奏音の表情を伺うと。
真っ直ぐに俺を見ていた。真剣な眼差し。熱のこもった瞳。好意的な態度。そしてやがてにっこりと微笑む。
「ふふ、貴方がそんなこと口にしていいんですか。」
俺の立場を完全に理解していないと出てこない台詞。怪しすぎにもほどがある。なのに真意を込めた声色で、俺に誓いを立てるんだ。
「やります。俺に出来ることなら、なんでも。」
何者かはさっぱり理解らない、何が目的なのか、どこから現れたのか、何故、俺に仕えることを選んだのか。
ただ直感で思ってしまった。
こいつは、味方だ、敵じゃない。
阿呆、なんの根拠があって、そんなん言うねん!
秋斉の説教が聞こえてきた気がする。
これは賭けだ。俺の直感があたるかどうかの賭け。
まぁ裏切られたら、その時に考えればいいし。
そう言い聞かせながら。
俺は、もう、奏音のことを疑うつもりがあまり無い自分の気持ちには、気づかないふりをして、薄く笑った。
「じゃ、明日から、ひとまず町回りをよろしく。」
「はい!」