みんなに未来から来たこと、消えるかもしれないことを話して、藍屋さんと新しく百貨店を始めても俺はまだ消えてはいなかった。相変わらず左肘は透けているのだけど。
いつ消えるかもわからないという怯えを抱きながら、それでも藍屋さんと過ごす毎日を愛しく思う。
ただ判らないことは。
「秋斉さんって俺のことどう思ってますか?」
「なんや、急に?」
信頼はされてると思う。大事にされてると思う。好かれてるとは思う。
毎日一緒に寝起きしてるし、エッチなこともされてるんだけど。どうもからかい気味というか弄ばれてる感じというか、意地悪されてるというか、
いや、そうされるのはゾクゾクして気持ち良いんだけどさ、好きなんだけどさ。
「いつか、消えてしまうから、将来の誓いなんて出来ないですよね……」
刹那的な遊びってことですか、とは言いたくなくて遠回しに表現する。
藍屋さんが俺をじっと見つめる。深い色合いの綺麗な瞳。その瞳に見つめられると吸い込まれそうになって何も考えられなくなって、動けなくなるんだ。
「すんまへん、そんな風に勘違いさせとったか。」
藍屋さんが手を伸ばして俺の頬に触れる。俺はその手に自分の指を絡ませた。
「奏音はんはわてのことどう思とるの?」
「それ、毎晩言わせてるじゃないですか。」
言うまで焦らすくせに。藍屋さんはクスクス笑って否定した。
「そっちやなくて。例えば、花里たちはわてのことを、こう言います、優しいけど何考えてるか判らん、商売仲間もそうや、掴み所が無いから怖いわぁ、一人で儲け話企んでるやろう、と。」
掴み所が無い、それは確かに最初はそう思ってた。
「秋斉さんは掴み所が無いように振る舞ってますけど。意外と勝負事には熱かったり向きになったりするし、イタズラ好きで、人をからかって遊ぶのが好きで意地悪で、優しいけど、不器用で、すごく人間らしいですよ、何考えてるか判らないってことはないです。」
俺への気持ちの種類は判らないけど。
「そんな風に言うんは奏音はんだけや。」
見当違いで、外れてるってこと?
「つまり、わては奏音はんにしか心を見せてないってことや。」
「秋斉さん……」
「ずっと、影でいいと思てましたんや。慶喜はんの理想を叶えるため、徳川家を残すため、守ろう、捨て身でもかまへん、大儀の為に、いつでも捨てごまになれる覚悟は出来とりました。
自分のしたいことなんぞ考えたこともなかったんや、奏音はん、あんさんに出会う前は。わては、ほんまに掴み所の無い、ただの影どした。
けどあんさんを見てたら変わった。真っ直ぐに世界と人を見据えて、理想を掲げて、人を巻き込む、説得する。
高杉はんら長州のお人らが、まさか、新撰組と手を組むなんて、誰が思ったやろう、本人たちはおろか、あの坂本はんですら思てなかったんと違ゃいますか。
あんさんが消えてしまうのは辛いわ。哀しくてしゃあない。けどあんさんを知らずに、影のまま生きとったら、それはおっとろしいほどつまらん人生やな、そら、いつ死んでもええと思うはずや。
今、わては死にとうない。自分のやりたいことがたくさんありますのや。世界を回って見たこともない商品を仕入れて、世間の人を楽しますのや、それはなんて、
なんて、楽しい、人生やろう。」
「うぅぅ、」
寂しい。その夢に、長くは付き合えないことが、たまらなく寂しい。だけど嬉しい。藍屋さんが、自分の人生を楽しいと言ってくれた。
藍屋さんが手で俺の涙を掬い上げる。瞼に口づけて涙を吸う、そのまま唇に深く入ってくる。
「わてはあんさんのことを、こう思とります。ほんに、心から、愛しとる。」
「秋斉さんっ」
ギュウッと首に抱きつく。腰を力強く抱き締めてくれる。
「消えてほしくはない、けんど、こんな楽しい人生、ずっと泣いてたら、もったいないやろう。」
「はい、はい、俺も、そう、思います。」
「だから、ずっと、最後まで、わてと一緒におり。笑って暮らそうや。」
「はい!」
満面の笑みで応えた。