血飛沫が返り血となって藍屋さんの顔に模様を作った。
「ヒュッ、ヒュッ」
「奏音はん?」
その場に腰を抜かしてへたりこむ俺に藍屋さんが走り寄って俺を覗きこむ。
なにやってんだ、俺は。早く立てよ、走れよ。まだ刺客が居るかもしれないんだぞ、早く逃げないと藍屋さんも危険になるのに。
立てない俺を藍屋さんが抱えあげて走り出した。
「ひっ、うぅっ」
荒い呼吸のなか、俺は泣き出す。女として似つかわしくないだけじゃなくて、俺は男としても迷惑をかけている。
京都御所に着くと、藍屋さんは座敷の一室に俺を運んで畳に座らせた。
「ヒュッ、ヒュッ、」
過呼吸を繰り返す俺に尋ねる。
「どうしたらええんや、どうやったら治る? 水飲ましたらええのか? 奏音はん。」
「かっ、過呼吸、で、す」
「病名は、ええ。対処法を言いなはれ。」
「ビニール袋、は、ない、から、密封された、袋、に、自分の息を、はいて、吸え、ば、」
「ほうか。」
藍屋さんが俺の口を塞いで俺の息を吸うと、自分の息を俺に吹き込む。そうだ、確かに人工呼吸をすれば治る。
それを何度も繰り返して、俺の過呼吸は止まった。
「人が死んだのを初めて見たんか?」
ふるふると首を横に振る。
「目の前で、友人が死ぬのを何人も見ました。」
「ほうか、それを思い出したんか。」
「はい、すみま、せん。」
「謝らんでもええ。」
頭を優しくポンポンと叩かれる。以前にそれをされた時は嬉しくてドキドキした。けど今は、
情けなくて、涙がでる。
強くなりたいんだ。もう、誰も死なせたくない。剣術を習ったって、さっきみたいな時に、俺は何も出来ない。
藍屋さんを守れないどころか、走ることも出来ずに藍屋さんを危険に晒した。
俺は、俺は、
「弱くて、足引っ張って、すみま、せん。女として色気も可愛げもないのに、男として一緒に戦うことも出来ない、中途半端ですね。」
「何言うとるんや、そんなん誰も思てへん。」
「だって、藍屋さんも、みんな、俺を守ろうとしてばっかりで、俺、俺が、何にも返せてません。」
「あんさんが外国を叩き潰すと語った時にわてはしびれましたんや。」
「え?」
「なんて強い人やと思いました。悔しくなるほど男前やと思うた。だから女やとは思てなかったんや。あんさんが弱いわけあるかいな、武術が強いことをそのままその人が強いとは言わへんよ、守りたいのは、あんさんが弱いからやない。」
両手で頬を包まれて、親指で涙を拭われる。
「あんさんの強さが必要やから守るんや。」
「藍屋さんっ」
きゅうっと抱きつくと、同じ強さで抱き返してくれる。
コツンと額をあてられて、見つめられて、たまらなくなった。なんて優しい笑顔なんだろう。
「奏音はん、わてにどうしてほしいか、言うてみ?」
「え?」
キス、してほしい、けど、でも。
仲間として、大事に思われてるのは判るけど、やっぱり藍屋さんには俺は不釣り合いだと思う。俯いていると、ペロリと涙を舐められた。
「んっ、」
「どうしてほしいんや?」
前言撤回だ。なんて意地悪な笑顔なんだろう。
「あの、でも、藍屋さんの周りには、菖浦さんとか、綺麗どころがたくさん居ますし、」
「うん? わての腕の中におったら、あんさんもすぐに綺麗になりまっせ?」
なんだ、その気障な台詞!
でも、言い返せない。藍屋さんに見つめられると、何も言えなくなる。翻弄される。
「意地悪ですね、俺の気持ち、さっき聞いたじゃないですか。」
「わてが聞いてるのは、いま、どうしてほしいか、や。」
「う、」
藍屋さんの手が膝から着物の裾をたくしあげつつ太股に回され、ぐっ、と指を食い込ませる。
「あっ、藍屋、さ、ん」
太股から内腿へと手が滑り落ち、さすさすと撫でられる。
「んぅぅ、」
「言わへんの? 言わへんかったら、ずっとこのままやで?」
それもちょっといいかも、と思ってるバカな俺が居る。でも、無理だ、我慢の限界だった。
俺は陥落した。