穏やかな波の上で | ロガリズム

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読んだ本の感想と、戯言です。戯れてあげてください。

共通ストーリー第2部からの続きになります

「奏音さん、すごいですね。なんであんなに英語お上手なんですか?」

「阿呆、外国で育ったからだろうが。」

「ええっ?! 土方さん、異国人のフリをしてるだけだって疑ってたくせに!」

まぁ正確には2人ともハズレなんだが。

俺はちょっと特殊な傾向の能力を持っている。
絶対記憶とは少し違う。絶対記憶を持ってる人は観た映像、文章、聴いた音、嗅いだ匂い、あらゆる感覚の全てを記憶して忘れることが無い。

俺はそこまでいかない。覚えておけるのは言葉だけだ。一度読んだ文章とか言葉、聞いた言葉を忘れないだけ。英語は元々読み書きだけは得意だった。外国との戦いに備えて毎日携帯アプリでネイティブ英会話を聴いてヒアリングと発音を鍛えていた。

「まあ、言葉を知っていても、あんなに堂々と対峙できる奴は少ないだろうがな。」

俺を見ずに、空を見上げながら判りにくい誉めかたをする。ほんと相変わらずだ。相変わらずになって、くれた。

カモメが船の横をじゃれるように飛んでいる。

沖田さんが藍屋さんにもらった饅頭をくずしてカモメにあげている。

今は江戸に向かっている船の上、慶喜さんは京都で将軍になる為の準備をする。その間に俺たちは江戸で新政府発足のための足ががりを作る。

船に乗った時から会津藩、新撰組隊士を巻き込んでトランプ勝ち抜きトーナメントをしていたのだ。あまりにも流行ったので古高さんに頼んでトランプカードを作ってもらった、俺、古高さんのことドラえもんみたいに使ってんな、ごめん、古高さん。

藍屋さんは順当に勝ち進み、今は準決勝あたりだろうか、しょっちゅう勝負相手をねだられていたからな、なんだかすごく強くなっていた、俺以外とも勝負していたんだろう。

早々に敗退してしまったので甲板に出て3人で話していたのだ。

「御二人の仕合のほうが凄かったですよ、綺麗でした。」

「ふふ、惚れなおしましたか?」

「え、惚れなおすって?」

「私にではなく、土方さんにです。」

「何をほざく気だ、総司。」

ニマニマといたずらっ子のように笑う沖田さんに、顔を歪めて焦る土方さん。

そうか、話したのか。

「俺が女だってこと聞いたんですか。」

「はい、他にもいろいろと。うふふ。」

意外だ。そういうの話すんだ。土方さんに目を向けると、うっすらと顔を赤くして目を反らされる。

「お前が無理矢理、聞き出したんだろうが!」

「そうかなぁ? けっこう詳しく話してましたよ?」

「てめえ、総司、いい加減なことをっ」

「あはは、」

仲が良いなぁ、ほんと兄弟みたいだ。俺と翔太みたいだ、と思ったらツキンと胸が痛くなる。俺たちもこんな風にずっとはしゃいでいたい。けど。

俺は目を閉じて思い出す。翔太との約束。もう決めたことだ。

土方さんは怒りながらも微笑を湛えている。良かった。沖田さんが発症しなくて良かった。もしかしたら感染はしているかもしれないが発症しなければ死ぬことはない。俺は居なくなるけど。

土方さんに、沖田さんや近藤さんや会津藩の名誉は遺していける。

「惚れなおすってことはないですよ、最初から惚れてるので。これ以上は惚れようが無いです。」

真っ直ぐに2人を見つめて言い切る。

「奏音さんって、大胆なんですね。」

からかっていたくせに顔を真っ赤にして沖田さんが微笑む。

土方さんは顔を抑えて目を反らす。

「では私はお邪魔虫なようですから、退散します、御二人でごゆっくり、うふふ。」

あんたはお見合いの親戚のおばちゃんか。

土方さんが顔を隠したままずっと黙っているので、俺は船のへりに歩いていって海を眺めていた。

しばらくすると隣に並ばれて、土方さんも海を眺めながら口を開く。

「あの時は悪かった、な。」

突き飛ばされて、穢らわしいと言われた時のことだろうか。

「あんな風に言うつもりはなかった。」

「突然だったんでびっくりしましたか?」

「あれは、本心じゃ、ない。」

「じゃあ、本心は?」

土方さんに近寄って下から顔を覗きこむ。口を歪ませて顔を赤くするが、今度は目を反らされなかった。

手を伸ばしてあの時と同じように指先で唇をなぞる。

「今度は突き飛ばさないでくださいね。」

そう言って顔を近づけようとして気付く。
あの時は女物の下駄を履いていたから届いた。

「土方さん、届かないから、抱っこして。」

「阿呆、こんなとこで出来るか。」

「誰も居ませんよ?」

「絶対、総司がどっかから見てる。」

まぁ見てるかもしれないけど。

「本当に悪いと思ってるなら、抱き上げてください。あの時はめちゃくちゃ泣きましたよ? すっごく傷つきました。」

「いま、それを言うのは卑怯だぞ。」

眉をしかめながらも、ふわり、と抱き上げてくれて、目線が同じになった。首に抱きついて、ちぅと唇に吸い付き、舌先で土方さんの前歯の裏をチロチロとくすぐる。

いったん離しては何度も唇を吸いあうと、だんだんと腰にまわされた土方さんの腕に力が入って強く抱き締められる。その力強さにたまらない気持ちになって言った。

「今夜、俺の部屋に夜這いに来てください。」

「……阿呆、」

睨まれたが拒否はされなかった。俺はクスクスと笑って、もう一度強くしがみついた。