どうやらタイムスリップしたらしいと解ってから、戻れることはまず無いだろうと判断した。
翔太となんとか生きて行こうと考えて、なのに何故か密偵なんかやり始めて、それが意外に楽しくて。
毎日いろいろな人に会い仕事をこなしてる間は忘れられていた。
友人にも家族にも、もう二度と会えない。
「どうした? 父は長崎に居るのではなかったか? そう聞いたんだが。」
「いえ、父は長崎には居ません。」
自分で作った設定を守れずに感情のまま吐露する。
「異国か?」
「いえ、もっと遠い所です。」
遥か彼方だ。
「亡くなったのか?」
黙って首を振る。「生まれてもいないです」なんて言えるわけなかった。
ポンポンと頭を優しく叩かれる。
「奏音、誇りに思っていいぞ。」
「誇りに?」
「そうだ、世の中には兄弟で殺し合うやつも居る。」
うつむいていた顔をあげると高杉さんが片眉を上げて笑う。
「お前は父を尊敬し愛していたのだな、お前の父もお前を大事にしていた、違うか?」
「ちがいません。」
父は鉱物学の研究者だ。小さい頃からずっと父の背中を見てきて俺も何かを研究できるような職に付きたいと願った。
「ならばお前の父もお前に会えなくて寂しい顔をしているだろうな。」
「そう、思います。」
「もう会えないのは、覆せんのだろう? 可能性があるのに諦める奴には見えないからな。」
「はい。」
「積み重ねは消えない。」
「え?」
「出会いが無ければ別れは無い。お前は別れが辛いからという理由で誰とも出会わない道を選ぶか?」
「……いいえ。」
「ならば寂しいと思えることを誇りに思え。父はお前を大切にした。その積み重ねがお前を寂しい気持ちにさせるのだ、それは愛された証だろう、寂しいかもしれないが。
哀しくはない。そうだろう?」
ボタボタッと涙が落ちた。
「高杉さんも家族に会えなくて寂しいですか?」
「当たり前だ。たとえ二度と会えなくても、お互いが寂しいと感じるならば、繋がってる。どんなに遠くても。」
「うっ、ううっ」
この時代に来て初めて、俺はガキのように泣きじゃくった。
「今日から俺がお前の兄になってやろう。一人っ子なんだろう? 兄が居たら良いと考えたことはないか?」
そんなん何度考えたか判らない。
ガキの頃の理想の兄は戦隊ヒーローのレッドだった。
俺、夢叶ったじゃん。ヒーローの兄貴が出来たよ。