無垢-拾壱 | ロガリズム

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読んだ本の感想と、戯言です。戯れてあげてください。

病が身体を刻一刻と死へと誘なっていたが、戦局は優勢だった。

犠牲が無いわけではないが、負け戦にはならない。

お前は約束通り、泣かなかった、止めなかった。

だが俺は知っていた。お前が時折俺の傍をふと離れて声を押し殺して泣いていたのを。

きっとまた泣いているのだろうな。探し歩くと、海辺に立ち背中を震わせているお前を見つけた。

「おい、」

声をかけるとビクリとして振り返らない。

そしてそのまま沖へ走り出すとザブザブと海に入って海水に潜った。

慌てて近寄ると振り返ったお前は綺麗に口角をあげて

「暑かったので水浴びしちゃいました。」

と笑った。

ギュッと強く抱き締める。

痛がるほどに強く。

「高杉晋作さんは私の時代でも有名なんです。日本を倒幕に押し進めた英雄で、明治維新志士なんですよ。

歴史が高杉さんを必要としてるんです。だから私は高杉さんのする事を止めません。

約束は守って、泣かずに、最期まで傍に居ますからね。」


お前を泣かせたくはない。

出来るならなるべく長く傍に居てやりたい。

けれど、俺は解ったんだ。

お前が未来から来たと知って、解ったんだ。

何故、こんなにも俺はお前に惹かれていたのかが解った。

お前は俺の理想の世界なんだ。

松陰先生が語り、友と語り、戦友と語った理想の世界。

皆が等しく、意見を出し合い、殺し合わず、支配されず、弾圧もされない。

考えていることをそのまま口に出しても誰にも殺されない政治をする国。

それが俺の、俺たちの理想だった。

無謀な夢だと言うものが多かった。

ただ不毛な殺し合いをしているだけだろう、倒幕に意味は無いとも言われた。

だが理想はある。未来にある。

松陰先生の教えは叶わぬ夢ではなかったんだ。

お前の傍に居てやりたい。

けれど、俺はそれ以上にお前に会いたい。

俺が志を果たして、それが繋がり、お前の世界が育まれ、お前が生まれる。

俺はほどなく死ぬだろう。

だがそれが未来を創る。

そして未来から、お前が来るんだ、俺の前に突如現れる。

お前が生まれる為に。

お前に会う為に。

俺は全力で命を燃やし、必ず、この世界をお前の居た未来に繋げてみせようぞ。

許せ。長く傍に居てやれないが。

お前に出会えないほうが、俺は嫌だからな。

そう思いながら何度も強く、強く、抱き締めた。